第25話

珠月が病院を退院して間もなく、湊人は珠月の両親から連絡を受けていた。

珠月の両親には、見舞いに通っている間に自身の連絡先を伝えていた。

珠月自身の携帯電話は、どうやら事故の際にタッチパネル画面が破損はそんし、現在も使用できない状態が続いているとのことだ。そのため、珠月へなにか用がある場合などは、代わりに両親の使用する携帯電話へ連絡をとっていた。だが、ふたりから直接、湊人へ用件があるというのは今回が初めてのことだった。

両親からは、すぐに病院に来てほしいということだった。用件を訊こうとしたが、着いてから説明すると言われ、教えてもらえなかった。

今夜、湊人には夜勤のアルバイトがあったが、それまでの時間なら問題ないと伝え、すぐに行くといい電話を切った。


湊人が自宅を出ると、空はすっかり夕闇ゆうやみに染まり始めていた。駅前の道は、そこかしこにクリスマスのイルミネーションが灯っていた。

十二月に入り、街はクリスマスムード一色になっていた。商店街の軒先のきさきにはツリーが飾られ、イルミネーションがきらびやかに街を浮かび上げていた。


クリスマスか…。


本来なら、珠月は拓海と幸せなクリスマスシーズンを過ごしていたはずだった。それが珠月が事故に遭い、記憶喪失になり、拓海も離れてしまった。湊人にはそんな珠月が不憫ふびんでならなかった。

だが、湊人にはもうひとつの考えが浮かんでいた。

いまの珠月は、記憶もなく拓海のこともわからない。それなら、代わりに自分がそばにいてあげることもできるのではないか。

それは湊人にとって、拓海への裏切りのように思えていた。しかし、数日前の拓海の態度こそが、珠月に対する裏切りなのではなかったか。

そうであれば、拓海への裏切りもなにもあるものか。いちばんは珠月が幸せでいることではないのか。

そこまで考えたとき、湊人は初めて自身の気持ちと、拓海との友情が変わりつつあることに気づいた。

俺はいま、なにを考えた?

湊人は自身に問いかける。

そんな気持ちが湊人に芽生え始めていることに、湊人は悲しさを覚えていた。

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