第24話

「あのさ」

湊人は恐るおそるその話題を切り出した。

「うん?」

「北村さんは、その…自分の誕生日とかも思い出せてない?」

湊人は慎重しんちょうに珠月へ訊く。

「誕生日?そっか、忘れてた。うん、わかんない。そういえば誕生日のこと、ぜんぜん気にしてなかったな」

珠月はいまのいままで、そのこと自体に頭がいっていないらしかった。

「じつは、北村さんの誕生日、明日なんだ」

珠月本人へ珠月の誕生日を教えるというのも、なんだか不思議な感覚だなと湊人は思った。

「え、そっか。明日なんだ、誕生日」

珠月はそう言われて、カレンダーに目をやった。

「十二月四日…」

「うん、そう。十二月四日」

やはり珠月は、自身の誕生日を覚えていなかったなと湊人は思った。この回答自体は、いままでの珠月とのやりとりで予想できたことだった。

「それでさ」湊人は勇気を振り絞ってそれを切り出した。「じつは、ちょっと早いんだけど、誕生日プレゼントを持ってきたんだ」

「えっ」珠月は驚きの声をあげた。「ほんとに?」

「うん。気に入ってくれるかはわからないけど」

そう言いながら、湊人は先日購入したピアスが包装された箱を取り出した。

「わあっ、うれしい。ね、開けてい?」

「うん」

湊人がうなずくと、珠月は待ちきれない様子で丁寧ていねいに包装をひろげ始めた。リボンを外し、包装を解き、箱を開け、珠月は三日月の形のピアスを手に取る。

「へええ、かわいい」珠月は喜んだ様子で言い、「ありがとう。ね、つけてみていい?」と湊人に訊いた。

「もちろん」

湊人が答えると、さっそく珠月はピアスを両耳の小さな穴に通した。湊人が危惧きぐしたように、ピアスの穴が塞がっているということはなかったようで安堵した。

「どう?似合ってるかな?」

珠月が肩までの髪をかきあげ、耳を見せながら湊人に訊く。

「うん、似合ってる。とっても」

「えへへ、嬉しいな」

「気に入ってくれたみたいでよかった」

「うん。ありがとう、大事にするね」

湊人は自身の顔がほころぶのがわかった。珠月が喜んでくれたことが、湊人には嬉しかったのだ。その瞬間、湊人は自身の胸も、温かいもので満たされていくのがわかった。

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