第22話

湊人がしばらく専門店街のなかをぐるぐると周回しゅうかいしていると、ひとつのアクセサリーが目に入った。

それは、小さな三日月みかづきの形をしたピアスだった。記憶をなくして以来、珠月はピアスをしていない。そういえば事故に遭う前の珠月は、いつもピアスをつけていた。一度、ピアスの穴を開けるときに痛くなかったのかと珠月に訊いたことがある。珠月は痛くはなかったと言って笑った。そのあと、ピアスも長くつけていないとせっかく開けた穴がふさがってしまうのだと言っていた。

そういえば、珠月のピアスの穴はまだ塞がっていないだろうかと思った。それならこのピアスをいまの珠月にプレゼントし、それをつけてもらえば穴が塞がらずにすむ。珠月の記憶が戻ったとき、知らないあいだにピアスの穴が塞がっていたら、珠月はきっとショックをうけるだろうなと湊人は考えた。


三日月か…。

そういえば、月はちてけてを繰り返している。三日月は新月しんげつ半月はんげつのちょうどその間だ。

真っ暗な新月が少しずつ満ちていく途中、満月までの四分よんぶんいちくらいだろうか。

それなら、まるでいまのおれたちのようだなと思った。

大学生になり、もう一年したら二十歳はたちになり、それから就職活動しゅうしょくかつどうを経て、ようやく社会へと出ていく。大学生は人生ではまだまだ、これから満ちていくその途中だろう。

月の満ち欠けのように笑ったり泣いたり、喜んだり苦しんだりを繰り返す、この三日月は大学生の多感たかんな時期を連想れんそうさせるような気がした。

また、欠けた月がまた満ちるように、いまは欠けた珠月の記憶もまた戻って欲しいという湊人の願いにも似ているような気がした。

この三日月は、まるで珠月のいまを表しているようだと感じた。

そうだ、珠月にこれをプレゼントしよう。ピアスの穴が塞がらないようにと、また、はやく記憶を思い出して欲しいという願いを込めたプレゼントにしよう、湊人はそう考えた。

よし、これに決めた。このピアスを買って珠月にプレゼントするぞ。

湊人はそう決意し、アクセサリーショップの店員へ声をかけた。

改めてピアスの値段ねだんを訊くと、思った以上に高価なものだった。だが、予定していた予算を多少オーバーしてしまったものの、湊人はその三日月のピアスを購入し店をあとにした。

小さな手提てさぶくろに入った、きれいに包装ほうそうされたプレゼントを眺めた。湊人は、珠月は果たして喜んでくれるだろうかと思った。手渡したときのこと想像すると、心が浮き立つのを感じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る