第18話

「…なにかあった?」

珠月の言葉に、湊人ははっとして顔をあげた。

「あ、いや、べつに。なんでもない。なにか変だった?」

「うん…、なんか今日は元気なさそうだなぁって思ったから」

珠月は心配そうに湊人を見つめていた。

昨日、拓海とやりとりをしてから、湊人はずっとぐるぐると拓海に言われたことを考えていた。だが、答えは出なかった。

拓海が言ったように、拓海と珠月の恋愛にとって、湊人は第三者、部外者ぶがいしゃでしかない。それを拓海に改めて突きつけられたのだった。それにまさか、じつは珠月のことが好きだから心配なのだとは、拓海に言えるわけもない。そしてそんな悩みが、知らず知らずのうちに顔に出ていたらしい。

「大丈夫、元気だよ。それより、今日はこれ持ってきたんだ」

話をそらすように湊人は言って、鞄から高校の卒業アルバムを取り出した。

「高校の時の卒アル。もしかしたら、昔の写真みて、なにか記憶が戻るきっかけにならないかなと思って」

「へええ、じゃあそれに高校の時のわたしが?」

「もちろんうつってる」

「え、みたいみたい!」

そう言って珠月はさっそくアルバムを開いた。

「わたし、何クラス?」

「おれと一緒で、三年の時はEクラスだったよ」

湊人が伝えると、珠月はページをぱらぱらとめくり、Eクラスのページを開いた。

左上に担任教師たんにんきょうし顔写真かおじゃしん、そしてそこから右に向かいクラスメイトの写真が男女別に並んでいた。

湊人は高校生当時の自分を、いまの珠月に見られることには多少の抵抗ていこうがあった。高校の頃は身だしなみにもあまり頓着とんちゃくがなく、服や髪型などもいまほど気を使っていなかった。そのため、この卒業アルバムにはボサボサの髪で写っている。いま見返しても、やはりこの頃の自分はダサいなと思ってしまう。

高校生時代は近所の床屋とこや散髪さんぱつを済ませていたが、やがてそれがダサいと思い始め、大学の入学直前に人生で初めて美容院びよういんにカットに行き、それ以来は美容院でカットしてもらっている。

だが、そんな湊人の心配などよそに、珠月はEクラスの顔ぶれの中から自身の写真を見つけた。

すると、珠月の表情ひょうじょうれた。

「ね、これ、わたし?」

珠月が高校生の自分の写真を指さし、不意ふいに質問する。

「え、うん、そうだよ。どうかした?」

湊人は質問を返す。それだけ珠月の疑問が不可思議ふかしぎに思えたからだ。そこに写っているのは間違いなく珠月自身だ。

「…なんか、ぜんぜん知らないひとみたい」

「え、そうかな…」

湊人は首をひねる。

いったいなにが珠月のなかでひっかかっているのだろう。たしかに記憶を無くしてからの珠月は、以前とはたしょう印象いんしょうが違ってみえる。だが、写真の珠月も目の前の珠月も、湊人にとっては湊人が想いをよせる北村珠月には違いなかった。

珠月はアルバムにっている自身の写真を、しばらく食い入るように見つめていた。

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