第4話

パンケーキ専門店は新しくできたばかりのせいか、店内はかなり混みあっていた。

湊人が想像したとおり、女子のグループとカップルとが席を埋め尽くし、みな思いおもいにパンケーキを堪能たんのうしていた。

ふたりは入り口で少し待たされたのち、注文カウンターへ案内された。

湊人と珠月がカウンターで注文を終えると、続いてテーブル席へ案内された。湊人たち以降に入ってきた客たちは空席待ちの状態じょうたいとなり、みるみるうちに行列ができていった。

その様子に珠月は「うちら、ラッキーだったね」と喜んだ。

しばらくしてふたりのテーブルにパンケーキと、一緒に注文したドリンクが運ばれてきた。

珠月は目の前に置かれたパンケーキに目をかがやかせた。

「うっわ、美味しそう!写メっとかなきゃ、これはえだね」

そう楽しそうに言いながら、取り出したスマートフォンでパンケーキの写真を撮り始めた。いま流行っているSNSへ投稿とうこうするのだという。

湊人はそのSNSアプリを自身のスマートフォンにインストールしていないので、さっぱりわからなかった。

重ねられたパンケーキには生クリームがたっぷりとかかり、さらにベリーが散りばめられていて、とても美味しそうだと湊人は思った。

それからパンケーキを口にした。

「うっま!」

珠月はひと口パンケーキをほお張ると声をあげた。

それからふたりで感想を言い合った。

「こんな美味しいものが苦手だなんて、拓海ももったいない舌に生まれたもんだな。まじ人生半分くらい損してるよ」

パンケーキをナイフで切りながら、湊人が言う。

「ほんそれっ、まじでもったいない」珠月も笑いながら同意した。「んーっ!おいしい!」

美味しそうにパンケーキをほお張る珠月は本当に可愛いらしかった。

こんな時間がずっと続けばいいのに。

そう湊人は思い、すぐにむなしさを覚えた。

そんな願いは叶うはずもない。それに珠月はもう拓海のものなのだ。

「そういえば、神林くんは好きなひととかいないの?」

突然、珠月がそんな質問をしてきたので、湊人は思わずどきりとして口の中のパンケーキをむせ返しそうになった。

湊人の好きなひとなら、いま目の前にいるのだから。

ドリンクをひと口飲むと、「いないよ」そう珠月と目を合わせないように言った。

「ふうん」珠月は不満そうに言う。「もったいないなあ。神林くんならすぐに彼女できそうじゃん」

湊人は内心びっくりした。湊人は珠月のその言葉に希望を抱かずにはいられなかった。だが、すぐに思い直す。

いまの珠月の言葉に、深い意味などない。

「そんな、全然だよ。おれ、拓海みたいにモテないし」

拓海みたいに、と湊人が付け加えたのは、さすがにわざとらしかったかなと、言ったあとで思った。だが、それについて珠月の反応はなかった。


パンケーキを食べ終え、ふたりが店をあとにすると、細かい雨が降り始めていた。

「あー、満足。帰ったら今夜はちゃんと寝なよ」

珠月は鞄から取り出した折りたたみ傘を差した。

「ありがとう、さすがに今日はおれも寝たいな」

言いながら湊人も鞄から折りたたみ傘を取り出し、差した。

駅はすぐそこだが、ふたりは駅まで傘を差して並んで歩いた。


「今日はありがと。じゃ、また明日ね」

「こちらこそ、じゃあ、また明日」

そう言って湊人は珠月と駅の改札で別れた。改札を遠ざかっていく珠月の後ろ姿を見ながら、湊人は寂しさを覚えた。


だが、珠月が言ったようにその夜、湊人がぐっすり眠れることはなかった。

それは拓海からの電話によって知らされた。

その夜、珠月が交通事故にい、病院に運ばれたという知らせだった。

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