ただの弟嫁じゃない



 2022年5月6日


 私達に弟が産まれた。周知の通りだとは思うけど、私達の住むこの世界じゃ男の子なんて無事に産まれるだけ、更に昔以上に男子の赤ちゃんが産まれてこなくなってるこの時代じゃ正に奇跡で、私も病院で初めて赤ちゃんの顔を見た時は凄い嬉しかったのを覚えてる。それで、一番上の姉ちゃん、陽葵姉ちゃんが千の道を晴らすって意味で付けた千陽って名前のこの弟を私ら姉達は大事に、大事に本当にどっかのお姫様みたいに扱った。ひま姉とにーにからも、お前らが弟を守れよってよし姉と弥咲と一緒にしつこく言われてたし、実際やりすぎかなと思うくらい、大事にしてきた。その後にできた妹の恵梨もそりゃ可愛いけど、やっぱり弟は特別だ。千陽は小さい頃、姉婿の陽斗兄ちゃんによく懐いてたけど、姉夫婦が実家を出てからはなぜか上のよし姉より、私や弥咲によく甘えてた。


「ちーちゃんね、りかにぇーのおむこしゃんなる」


 弟あるあるだけど、小さい頃の千陽はこんな事言ってくれてもう可愛いのなんのって・・・まあ、これはよし姉にも弥咲にも同じこと言ってたみたいだけど・・・・・・でも、私と弥咲に関しては、半分それがほんとになったような気がする。だって、私と弥咲夫婦の2人の娘の父親は千陽だから。私は当初そうするつもりはなかった、だって私達が結婚した18歳の時って、千陽はまだ12歳の小学6年生だったのと、将来を約束する彼女もいてその子の気持ちも考えたら、簡単に子作りしようなんて言えるわけがなかった。でも千陽は私や弥咲が何も言わずともお姉ちゃん達のためにって嫌な顔ひとつせず受け入れてくれた、千陽の彼女、私達からしたら義妹の咲里も女だけで子供は産めないし、私達が千陽を大事にしてるのは分かってるからって言ってくれた。しかもこの子、千陽のいないところでとんでもない事を私達に言った。


「千陽は種馬じゃありません、なので子作り目的だけでするのはやめてください、また姉ちゃん達の性欲の捌け口にするともやめてください、私が勝てないと思うくらいに千陽へしっかり愛情を注いでください」


 あの時の咲里ははっきりそう言った。あぁ、なるほどこの子は私達を信頼しているぞと言ってくれてるんだなって、自分が千陽を取られるのはいいけど、それで千陽が傷つくのは許さないと私達に釘を刺してるんだなって、そしてこの子はこの歳で既に、千陽を守るってその一点でとんでもない覚悟を持ってるんだなと感心した。思えばこの時が、私と弥咲にとっても、咲里はただの弟嫁じゃなくて、血の繋がりはないけど私達の妹なんだって確信的に思った瞬間かもしれない。ひま姉やよし姉がどう言おうと、苗字が違おうと私達からしたら咲里は妹だって。



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