あいつの話 2



 高校の時にとんでもない怪我をして、サッカー選手の夢を絶たれた私は自棄になって、献身的に支えようとしてくれた幼なじみの彼氏に酷い事を言って、酷い事もして、突き放した。けど私もまだガキで、自分から捨てたのにあいつの事を忘れられなくて連絡先も消せていなかった。そして、私は立ち直って必死に勉強して、私みたいな選手をもう出さないようにスポーツトレーナーになってやると決意して体育系の大学に入った。それでキャンパスで再会した幼なじみに、私と別れた後の悠希の事を聞いて、いてもたっても居られなくて、ちゃんとあの時の事を謝りたくて、すぐ地元に戻ってあいつの家へ行ってみた。


「芳ちゃん、あんた今頃どの面下げて来たんね」


 悠希のお父さんは出てくるなり、私にそう言った。当たり前だ、婚約すら決まってたのにあんな形で悠希を捨てた私なんかが、ご両親に顔向けできるはずはない。でも、どうしても会いたかった、悠希の顔を見たかった。


「私が到底許されない事をしたのは分かっています。ですが、だからこそ、悠希さんにちゃんと直接謝罪させてください!お願いします!」


「今更謝られたっちゃねえ・・・帰りね」


「嫌です!直接謝らせてもらえるまで帰りません!」


「ばってんこぎゃんとこ近所に見られたら・・・」


 そのうち悠希のお母さんも出てきて、玄関先での押し問答が続く中、ずっと頭を下げ続ける私に、懐かしい声が聞こえてきた。


「芳美、なんしよっとやあんたな」


「悠希・・・」


「こぎゃんうちの玄関先で・・・ママ、パパ、さしより上げてやって」


「「ばってん悠希・・・」」


「いいけん、上げてやって!」


 そうして悠希に半ば強引に家の中に上げられ、2人で話そうと言って、昔何度も来た悠希の部屋に入った瞬間、私は自然に土下座していた。


「ごめん、私な酷い事・・・あれからもずっと悠希が私の事心配しよったって哉子に聞いて、私ななんさんバカなガキだったけん・・・ほんなこつならこの家の敷居も跨いだらでけんごつあるて・・・・・・」


「・・・まあそうね、確かにあんたなどうしようもにゃあバカでガキで・・・ばってん、うちなね、そぎゃんあんたの好きになってしもたっだけん。あん時なうちも芳美の気持ちばもっと慮ってやるべきだったとこもあるどし」


「いや、悠希はなんも悪にゃあ、私が全部悪い・・・ほんなこつならもっとはよこぎゃんして謝りに来にゃんだったつに・・・」


 泣いて謝り続ける私を、悠希はそっと抱きしめてくれた。


「大丈夫、時間がかかってもあんたはこうしてまたうちんとこに戻ってくるて分かっとったけん。幼稚園からずっと一緒だったんだけん、うちは芳美の事ならなんでん分かるもん」


「悠希・・・」


「分かるけんこそね・・・やっぱ、あんたはうちなんかと一緒におったらでけん人よ」


「え?」


「だってなんだかんだ僕なあんたば、あんたのなんもかんもば全部受け入れてしまうし・・・陽斗兄ちゃんにも、そら芳美のためにならんて言われたしね。だけん、うちなあんたば忘るることにした、あんたもうちなんか忘れてよか人と・・・・・・」


 悠希は言いかけて、何かを飲み込んで、そしてはっきりと私に告げた。


「うちなんかよりもっとよか人と一緒になりねよ」


「・・・・・・分かった」


 これが、私と悠希の最後の会話。これ以降、お互いずっと連絡は取っていない。私も幼なじみとして、悠希の最後の顔を見ただけでその覚悟が分かっていたから。それから20年近く経った今も、悠希がどうしているのか、あいつこそ私なんかよりずっといい人を見つけて幸せになってたらいいなと願うだけだ。











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