あいつの話 1
「よしちゃん、うちら付き合っちゃおうよ」
あいつが、幼なじみの悠希がそう言ってきた時、私はまだ、よくその言葉の意味が分かってなかった。だって、この時私らまだ小1だよ?悠希の事は確かに好きだったけど、その好きってことがどういうもんなのか、私はよく分からんまま、彼の言葉にうんと頷いた。
「ゆうちゃん、芳美がイタズラしたりしたらうたくっていいけんね」
ねーねが悠希にそう言ってるのを聞いて、私は単に怒られる人増えちゃった・・・くらいに思ってた。実際、悠希もにーにと同じくらい、同級生とは思えないくらい怒ったら怖かった。3年生の時、校庭の高い木に登って飛び降りるっていう今思えば危険な遊びにハマった時も、先生達に見つかる前に悠希にたいぎゃ怒られて、にーににも報告されてまた怒られた。そうやって考えたら、悠希はそんな私に呆れて冷めるわけでもなく、ずっと一緒にいてくれた。小学校でも中学校でも、高校でも・・・・・・でも、私はそんな悠希を最終的に酷い形で捨てた。あれは高校2年の夏の事・・・・・・
2029年 夏
ねーねがプロ野球選手として大活躍して全国的に有名になっていた頃、そのすぐ下の妹である私もサッカーの道で実績を残して、この頃はU18日本代表メンバーに内定していた。テレビなんかじゃ「ファルクス葛西選手の妹」って報道されて、ねーねの影響ありありだったけど、別に私はそれに対して悔しさとかはなかった。だって、ねーねの凄さは私が1番よく分かってるし、何よりそんな偉大な姉は私の何よりの自慢だったから、むしろねーねの妹である事が誇りだった・・・いや、違うな、ねーねの妹に産まれたことを誇りに思うのは今でもか。それで、道は違えど大好きなねーねの後を追って、私は次第にやんちゃもしなくなり、サッカーに熱を上げていた。けど、ある日の練習中・・・・・・
「あっ・・・」
雨上がりのグラウンドで実戦形式の練習中、相手のスライディングを避けようとして、スパイクがハマった!と思ったのも束の間、その左足にとんでもない激痛が襲った。チームメイト達が駆け寄る中、監督とマネージャーの悠希に付き添ってもらって救急車で運ばれた病院で医者から言われた言葉は今も忘れない。
「これでは回復しても以前のように走り回るのは・・・・・・」
治っても走る事ができない・・・つまり、サッカーなんて走り回るのが当然のスポーツは当たり前にできるわけがない。その瞬間、私は幼い子供のように声をあげて泣いた、泣いた、泣きじゃくった。凄いねーねと違って、幼稚園からずっと唯一続けてきたサッカーを取ったら、私には何も残らない気がして・・・・・・手術は成功した、でももうサッカーはできない、どころか走る事すら・・・もう、その時の私には全てがどうでもよくなったんだ。だから、毎日見舞いに来てくれた悠希が何を話しても私は上の空で、次第に鬱陶しいなと思っちゃって・・・・・・
「芳美、退院したら陽葵姉ちゃんの試合観に行こうよ。姉ちゃん、芳美が観に行くと必ずホームラン打つもんね、グラブ持ってく?つっても姉ちゃんの打球な看板当たったりするけん意味にゃ「せからしい、黙っとけ」
「芳美?」
「姉ちゃん姉ちゃんて、お前の姉ちゃんじゃにゃあどが。だいたい毎日毎日来られて鬱陶しいつた」
「ごめん・・・ばってんうちなただ、あんたが心配で・・・・・・」
「泣きちゃあとはこっちた、この足じゃ代表入りどころか、サッカーはもう・・・・・・この絶望がお前に分かるかよ!同情するような顔されっとももううんざりや!だけんもう、お前も私に構うな、消えろ」
「芳美・・・」
悠希は何か言いたげな顔をしながら、それ以上何も言わない私を見て、病室を飛び出していった。退院後、学校でも何度も悠希は私に声をかけようとしていたけど、私は無視し続けて、他の男子と付き合ったりもした、いや、付き合ったていうより私は遊び感覚で・・・・・・それでもあいつが私を思い続けていたと知ったのは、大学へ行って、別の幼なじみと再会した時の事だった。
「悠ちゃん、そぎゃん言われても「芳美は悪くない」、「うちが不甲斐なかった」て庇い続けて・・・」
「あいつらしいな・・・なのに私なヤケになって、あいつに酷い事・・・」
それを聞いて、いてもたってもいられなくなった私はすぐに地元へ帰って、あいつの家に行ったんだ。
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