第10話 スタート地点
――――――『会って欲しい人がいる。』
『なに?ママに会わせたい人って事は…そういう事?』
『…やっぱいいや。』
『なんで?いいのよ?顔見るくらい。突き返したりしないわよ。冷たい麦茶くらい出してあげるわよ。』
『…怖ぇわ。そういうの。』
『…だってあたし、『普通のママ』じゃないし。』
『そうだけどさ。』
『…でもやっぱいいや。…ママはここの世界の人だからさ。巻き込む必要も無い。』
―――――――――『侑海。』
僕を呼ぶ声と共に隣の『母』が消えた。
「…気に食わない?」
「気に食わない。所詮、あたしの『敵』でしかない。」
少し残念そうな顔をする僕に冷たくもそう言い切った。
「所詮あんたにとってはこっちで『作った』だけの人。あんたにとっての『母親』は影も形も分からない『よくわからないもの』でしかない。」
「……作っちゃダメ?」
「こっちの『ママ』は所詮『女』でしょ?なら邪魔でしかない。」
「…究極の『都合のいい女』」
僕がそう遠く見て小さく呟くと、
「でしょ?そんな『クソみたいな女』、あたしで十分でしょ。あんたが『創った世界』とはいえ、それぞれ体もあれば心もある。むやみやたらに潰しに行かなくてもいい。あの人たちに罪は無い。あるとしたら、この世界を利用してるあんた。」
「……。」
「どう?誰もこんなこと言ってくれない。あんたの事『何も知らない』から。」
「…騙してた。それでいいと思ってた。その場だけ。適当に、溺れてたかった。」
「あたしは『騙され』ない。」
「じゃあ、消えろ。」
「…あたしも同じ。」
「んなわけねぇだろ。」
「同じ。」
「なにが。」
僕は少しイライラし始めていたが彼女は冷静で何も変わらなかった。
「信じないと思うけど、あたしは、あんたを…『紫音』を騙してた。」
「……」
「気付いてたんでしょ?だから迎えに来たんでしょ?」
「…あの時『違和感』があった。」
「でしょ?あの
「そう。でもね、
「そうでしょ?」
彼女は僕を見て微笑んだ。
「………」
僕が彼女の目を見つめると、、
彼女に引き寄せられて唇を重ねられた。
「私は、あんたに気付いてた。途中から『紫音』のフリしてたことも。
「…おかしいとは思ってた。警戒心も何も無くて少し驚きもした。」
「ちょくちょくあたしの事見てだでしょ?」
「店には行ってない。」
「そうね。来てはない。でも、エレベーターですれ違ったり店の前ですれ違ったり。…覚えてる?」
「…?」
「あたし、すっごい体調悪い日あってエレベーターでふらついたらたまたまドアが開いて入ってきたあんたにぶつかったというかもたれかかったの。」
「覚えてる。」
「…あの時にあたしはあんたに惚れたの。」
「…早くない?」
「タイプだったから。」
「蓋開けてガッカリ?紫音と一緒。」
「めんどくさくはあったよ。今もそれは変わんない。でも、あんたはあいつとは違う。あんたはちゃんとあたしに言ってくれる。…だから着いてきたの。」
僕は…咲を抱き寄せていた。
「…最初はね、優香の代わりだった。でもそうじゃなくなってった。咲が占める割合が増えてきたから。」
「あんたは創るべくしてこの世界を作ったの。…あたしに導かれてね。」
「…導かれて?」
「あたしは『魔法使い』。忘れた?」
「俺より力あるもんな。」
「そうよ?あたしはどこでも行ける。なんでもできる。」
「……。」
「…会いたい?」
「…ううん。」
「本当は?」
「…会いたいけど怖い。嫌われてるかも。本当は俺が邪魔だったのかも。なのに…俺だけ…」
「その先は言わなくていい。」
彼女は僕のおでこに彼女のおでこを重ねて唇を重ねてくれた。
「…大丈夫。あんたは愛されてた。世界で一番愛されてた。信じてあげて。」
「……」
僕は小刻みに震えていた。
怖かった。
辛かった。
消えてしまいたかった。
「誰もあんたの母親の『代わり』になんてなれない」
「……どうせ、、、」
「どうせなに?」
「…。」
「信じなさい。あたしはあんたを置いていかない。いつでも、どこでもあんたと一緒。信じてだから。《あの人達》が悪いわけじゃない」
「裏切るな…。」
「私は誓える。あんたは?いっつもあんただよ?…あんたこそあたしを1人にしないで。私はあんたの唯一の理解者。……あんたが死ぬまでそばに居てあげる。」
「咲さんは不死身?」
と彼女に対して子供みたいに聞くと、
「そうよ。私は『不死蝶』」
「いいね。たまらない」
「…なに想像した?」
「ん?…咲さんこそ。」
僕らはまた静かに唇を重ねた。
──────「…咲さん。愛してるよ。」
「私も。」
「着いてきてくれてありがとう。」
「まだまだ足りない。もっと色んな所連れてって。」
「んー。次はどこ行こっか。」
「外国。外国行こうよ。」
「いいね。綺麗なお姉さんいっぱいだ。」
「外国のお姉さん苦手でしょ?」
「なんで知ってんの?」
「絶対外国人の見ないから。」
「…俺はこの目の前のお姉さんが一番いいから。」
「……あそこ行こうよ。」
「ん?あそこ?」
「あんたがあたしにプロポーズしてくれた場所。」
「あの海の見えるレストラン?」
「そう。あのお店、」
「いいよ。またの海でピンクローズあげる。」
「お花はもういいかな。」
「…二人でいれれば?」
「うん、そう。」
────────────。
六畳一間 海星 @Kaisei123
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