第6話 今だから見えるもの

――――――――――――。


「……」


目を開けて息を吐くと僕の手には暖かな手が重ねられていた。


「…夢か。」

「全部夢。」


かたわらには膝を抱えた人。



六畳一間。夢から覚めた。



「腹減った。飯。」

「何食べる?」

「何食べたい?」

「これといってない。」

「パスタでも作るか?」

「作ってくれるの?」

「うん。」

「手伝うわ。」

「座っとけ。」

「一緒にやらせて。」


膝を抱えたままこちらを見て微笑むのがまた可愛くて自然と僕も微笑んだ。




「なぁ咲。」

「ん…?」


「お前は俺でいいの?」

「いいから居るの」


「……優香と話すみたいに話したい。」

「…どんな風に?って…あれか…。あたしできるかな。」

「あいつ、品ねぇからな。」

「それもあるけど、あたし、あの人ほど強くない。」

「あいつもそんな強くない。」

「でも、あたしより強い。」


「……」

「なに。」


彼女がニヤニヤする僕の方を見て返す。


「ん?…締めつけは咲が一番すげぇ。」

「…バカじゃないの。」

「マジ。だからお前が一番いい。分かりやすくて好き。」

「頭おかしいんじゃない?…って頭おかしい奴に言ったってか…」


彼女は呆れながらも少し笑っていた。


「…咲はどうなの。俺として楽しい?」

「あんたは?他で楽しいの?」

「…正直物足りない」


「…誰もあたしにかなわない?」

「誰もかなわない。」

「あんたはさ、ああいうやり方でしか理解できないでしょ?だからあんたの体と頭に叩き込んでんの。」


彼女は相変わらず膝を抱えて少し腕で顔を隠しながら片手で僕の手に彼女の手を重ねたまま話していた。


「…ねぇ。俺もう無理だよ?」


僕はそう伝えると彼女を力一杯抱きしめた…。



「…咲を殺したい。」

「来て…」

「何しても文句言わねーな?」

「言わない。」


僕は彼女の首を締めて…優しく愛した。


「怖いか?」

「……」

彼女は首を横に振った。


「じゃあちゃんと俺に解らせろ。出来るか?」


彼女は直ぐに首を縦に振った。



「……ごめん。」

「いいの。わかってるから。…全部わかってるから。」



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