知り合いは多い方がいい
「ようこそ、アテナへ。歓迎するよ、ユーリア・ファンブル君」
アテナの門前に転移した僕は、様々な感情を抱えながらも門へ向かって歩き始めた。すると門がゆっくりと開き始め、僕を待ち構えていたかのように一人の女性が姿を現した。その女性に対して僕が抱いた第一印象は、アテナ入学者にしてはあまりにも情けないものだった。
(…………なんて、エッチなんだ)
控えめに言って、その女性は男性にはあまりに刺激が強い煽情的な格好をしていた。
腰あたりまで伸びる燃えるような赤髪、金色に輝く瞳、抜群のプロポーションをこれでもかと見せつけるショートパンツに、大胆に肩を露出した胸元まで見えるオフショルダー。
(こ、これが大人の色気ってやつなのか……!?流石はアテナだ……)
アテナが世界最高峰たる所以の一端を目にした僕が固まっていると、いつの間にかその女性は僕の目の前まで来ていた。
(いい匂いがする……。もしかして、貴族が好んで使う香水とかいうやつかな?)
「まずは自己紹介からかな。私の名前はオリヴィア・ベルンバード。明日からアテナの二年生になる、君の先輩だよ」
「え、明日から二年生ってことは……まだ16歳ですか!?」
「んん~?もしかして、私って老けて見えるのかな?ちょっとショックだ」
「い、いえ!そういう意味じゃないんです!その、僕と比べて物凄く大人っぽかったので、一つ上だと聞いて驚いただけで……」
僕の弁明を「ふむふむ」と頷きながら聞き終えたオリヴィアさんは、「にやっ」と浮かべていた笑みをさらに深くした。
「ほほ~う。大人っぽいか~。つまり、ユーリア君には私が魅力的な女性に見えていたってことかな~?」
「い、いや、それは……」
「おやおや、否定するのかい?もしも否定されたら、私はきっと傷ついてしまうだろうなぁ~」
「うぅ……そ、その、僕にはオリヴィアさんが魅力的な女性に、み、見えてました…………」
女性に向かって魅力的だなんて言ったことがなかった僕は、オリヴィアさんの顔を見れずについ顔を赤くしながら俯けてしまう。
「分かりやすく照れてる……。これは揶揄いがいのある後輩が入学してきたものだね。アテナに来るような人は皆癖が強いから、このような人材は貴重だ。……っと、意外と時間に余裕がないんだった。ユーリア君、顔を上げて。歩きながら話そう」
「は、はい」
僕は恥ずかしさに襲われながらもなんとか顔を上げ、オリヴィアさんと共に歩き始めた。……まだオリヴィアさんの顔を直視することは出来ないけれど。
「さて、まずは何から話せばいいかな……」
「あの……一つ気になることがあるんですけど、質問してもいいですか?」
「お?なんだい?何でもとは言えないけど、答えられることは答えるよ」
「この門はアテナの出入り口なんですよね?なんだかアテナにしては閑散としてるような気がするんですが……」
「あぁ、そのことか。実はこの門は入学者専用の入り口なんだよ。アテナの入学者はこの門前に転移する。そしてその後、学年が一つ上の先輩にアテナを案内されるという風習があるんだ。私は学園から君の案内係に割り当てられた。それゆえに、ここで君を待っていたんだよ」
「ということは……もしかしてオリヴィアさんがアテナを案内してくれるんですか!?」
「そういうことになるね。アテナは学園とは思えないくらい敷地が広く、まるで都市のような構造をしている。だから君の案内が終わる頃には日が落ちていることだろう。つまり……君はこれから半日、私とデートをすることになる」
「デ、デートっ!?」
自慢ではないが、僕は女性とデートをしたことが一度もない。それ故に、こうして声を上擦らせて挙動不審になることは仕方がないことだろう。
「……君は本当にわかりやすいというか、こう反応するだろうと思った通りに反応するね。この学園で君がやっていけるか、だんだん心配になってきたよ」
「うっ、僕も僕自身が心配で仕方ありません」
「ははっ、まぁ何かあったら私を頼ってくれたらいいよ。私が君の案内係に割り当てられたのも何かの縁だからね。それに、君は私の敵には成り得ないから」
「て、敵……ですか?」
「おっと、これ以上は私の口からは言えない。入学式を待ちなさい」
「……?」
オリヴィアさんの意味深な言葉に僕は首を傾げる。
(敵……いったい何のことだろうか。それに「入学式を待ちなさい」って、入学式で何があるんだ?)
そのような疑問が頭の中に生まれるも、平凡な僕の頭脳ではすぐに答えは出ない。
(うーん、考えても答えが出そうにないし、オリヴィアさんの言う通り入学式を待つしかないか……)
無理やり自分自身をそう納得させた僕は思考を中断し、オリヴィアさんとの会話に集中することにした。
「よし。門を抜けたことだし、アテナの案内を始めよう。まずは君が暮らすことになる学生寮からかな」
「は、はい。よろしくお願いします」
それから僕は約半日に亘って、アテナの敷地内をオリヴィアさんと二人で歩き回った。
例えば学生寮。
「ここがユーリア君の部屋だね」
「おぉ、流石はアテナ。高級感が溢れ出てるし、埃一つない。それに何より、部屋が広い……」
「そうかな?一般的、いや、むしろ狭いと思うけど」
「えっ……」
「あと、君の荷物はもう部屋に運び込まれてるから。明日は荷物の整理でもするといい」
「あ、はい」
例えば食堂。
「ここは学生と教職員専用の食堂。一流シェフの料理がいつでも無料で食べれるよ」
「食べ物がキラキラして見えるのは僕の気のせいですか?」
「ふふ。気のせいじゃなくて、実際にキラキラしているね。貴族を相手にしてきた料理人たちはああやってキラキラさせるんだ。貴族は視覚で食事を楽しむ傾向にあるから」
「なるほど。そんな理由が……。っていうか、やっぱりこの学園には貴族の人もいるんですね」
「貴族はかなり多いね。私もそうだし」
「え、そうなんですか?い、いや、そうなのでありますか、か……?」
「……普通に接してくれればいいよ」
例えば運動場。
「ここは運動場。トレーニングを補助する器具や多種多様な武具が置かれているから、戦闘面で鍛えたいことがあればここに来るといい」
「あれ、でも全然人がいないような……」
「まぁ、ここを使う人はあまりいないね。皆個別のトレーニングルームを使うから」
「個別のトレーニングルームもあるんですか!?」
「そうだよ。予約は必要だけどね」
そのほかに校舎、市場、鍛冶屋、武器屋、冒険者ギルド等々……、様々な場所を紹介され、そのおかげである程度アテナの構造を理解することができた。
案内が一通り終わる頃にはすっかり日が落ちてしまい、辺りは魔導ランプの光で照らされていた。
「今日はありがとうございました」
「うん、どういたしまして。どうだい?少しはアテナの構造を理解できたかな?」
「はい。十分なほどに理解できました。オリヴィアさんのおかげです」
「それだ」
「……?」
「オリヴィア“さん”は適切じゃない。君はアテナの生徒になるんだろう?」
「……あぁ、オリヴィア“先輩”、ですね」
「うん、いいね。次出会ったときはぜひそう呼んでくれ。それじゃあ、私は行くよ。頑張ってね、ユーリア君」
「ありがとうございました、オリヴィア先輩」
その後、僕は学生寮の自室へと赴き、荷物の整理を行ってから就寝した。こうして、僕のアテナ生活一日目は終わりを告げるのであった。
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