第10話 降ってきたのは女剣士

「な、なんだこの女? 一体どこから出てきた?」


 モヒカンの男が突如現れた女性を見て疑問の声を上げた。確かに唐突に女の子が降ってきたら驚く。


「そんなことよりも、さっきから見ていたがお前たちよってたかって一人と一匹相手に何をしている?」


 女性は長い黒髪を揺らし俺の前に立つと、連中を睨み付けながら言った。

 俺を確認してきたときに顔は確認できた。年齢は俺よりも若い。十八~二十歳の間ぐらいだろうか。


 美少女でクールな印象を受ける子だった。和装であり腰には刀と思われる得物。侍っぽい雰囲気もあるけどこの子も三人と同じ冒険者と見て間違いないのだろうか。でなければ白昼堂々と刀を持って現れないだろう。


「何も知らねぇのにしゃりしゃり出てくるんじゃねぇ! 俺等はこの野郎に先輩として教育してやっていただけだ」

「突然金を寄越せと脅迫まがいのことをするのが先輩冒険者の正しいあり方なのか?」

「ワウワウ!」


 スキンヘッドが彼女に対して言い返していた。それに対して俺が問うと、そうだそうだ! と言わんばかりにモコが吠えた。俺の後ろからヒョコンと顔を出して吠える姿がなんとも可愛らしい。


「なるほど……つまりお前らは冒険者という人々の手本とならなければいけない身でありながら追い剥ぎのような真似をしたと、そういうわけだな?」


 彼女の声は静かだがよく通る声だった。しかも射るような鋭さも滲み出している。


「チッ。もう面倒だ。こうなったらこの女も一緒に黙らせちまうぞ」

「ヘヘッ。そうこなくちゃな」

「全く馬鹿な女だ。そっちのバカはよえぇ。実質俺等三人の相手をお前一人でやることになるんだぜ」


 ホスト風の男はごまかすこと自体を放棄したようだ。しかも残りの二人もやる気満々と来ている。


「ま、下手な正義感でやってきたのが間違いだったってことだ。でもまぁ顔は好みだしな。動けなくしてからしっかり可愛がってやるよ」


 三人の男たちが下卑た笑みを浮かべていた。全くとんでもない奴らだ。だけど肝心の少女の方には動揺が感じられない。すごく落ち着いている。


 それだけ自信があるってことか。とは言え女の子一人に任せて年上の俺が何もしないなんてありえない。


 幸いあいつらの目にはもう俺が映ってないようだ。今なら――俺はリュックからホームセンターで購入した道具を取り出して準備した。


「女とはいえ冒険者なら手加減しないぜ! 手足の一本や二本折れるぐらいは覚悟しな!」

「おいおい。顔はやめろよ。楽しめなくなる」

「ヘッ!」


 そんなゲスな会話をしながらスキンヘッドの男が少女に鉄槌を振り下ろそうとした。


 女の子相手にあれはやりすぎだ! 俺は準備の出来た物を手にしてスキンヘッド目掛けて引き金を引いた。


 バシュッ! という風切り音がし、そしてスキンヘッドの悲鳴が続く。


「ヒギィィイィィイイイイイイアアアァアアアアッ!?」 


 そして白目を向いてスキンヘッドが倒れた。少し煙が上がってるが向こうから危害を加えてきたわけだしそれぐらいは勘弁して欲しい。


「――貴方それって?」


 助けに入ってくれた彼女が問いかけてきた。まさか俺が加勢するとは思っていなかったのか若干驚いているようでもある。


「あ、うん。スタンボルトさ。護身用に買っておいて良かった」


 そう言いつつ彼女に手にしたクロスボウを見せてやった。本来なら先端の尖ったボルトを撃つための武器だが、これは先端は棘のようになっていて、当たると同時に電流で相手を無力化出来るそういう武器だ。


 物騒にも思えるがジョブストーンを手にした連中の中には犯罪に走るケースも有り、一般市民の自衛手段の一つとしてこういった物を持つことも許可されている。


 ダンジョンが出来る前はこういった護身用の武器を持つのも簡単ではなかったようだが今は普通にホームセンターで買える代物だ。


 勿論なんの罪もない人に向けて打つのは禁止されているし、その分犯罪に使用された場合は厳しく罰せられるようだけど。


「てめぇふざけやがって!」


 叫び声が聞こえた。見るとモヒカン男が俺に向けてナイフを投擲しようとしていた。頭に血が昇って見境がなくなっているのかもしれない。


「ワウワウ!」


 その時だった――一足早く飛び出ていたモコが果敢にモヒカン男の足にとびかかりそのまま噛み付いた。


「ギャッ! て、テメェ離れやがれ!」

「グルゥウゥウゥウゥウウウウ!」


 モヒカン男が怒鳴るがモコは決して外すことなく牙を食い込ませていた。モヒカン男は痛みに悶え投擲できずにいる。


「勇敢だぞモコ!」


 俺はモヒカン男に向けて引き金を引いた。発射されたボルトが胴体に命中し悲鳴を上げてモヒカン男がその場に倒れた――

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