ごめん、◯◯子さん……ッ!!
明鏡止水
第1話
やらかしの女王、明鏡止水。
夜勤で朝の四時に体重の。
その、まあ、とにかく「大御所」と呼ばれている◯◯子さんのパット抜きとやらをしました。
「ふぐぅっ……!!」
腰に痛みを感じながらゆっくりと、着実に、◯◯子さんをころんと横向きにし、お尻を清拭タオルで拭き拭き。
あらかじめ開いておいた新しいパットをお尻の位置にしき、
「ぐぐぐぐぐう……」
◯◯子さんの体を戻してオムツ装着。
ふう。
夜間に一回替えないと尿もれしてしまうのだろう。
パット抜きってなんのためにやるんですか?
とか。
今更聞けない。
おっと。他にも体位交換やパット抜き。おむつ替えの人がいるぜ!!
!!!!!
ふっ、面白くなってきやがった。
早朝四時から起き出す猛者たちがトイレに駆け込んでくる。
……お願いだから、靴履いてきて。
なんで靴下で廊下出てくるの転倒しないで。
ああ、ズボン前後逆だよ、後で履き直させなきゃ。
……肌着はどうした、脱いだのか……。
おっと、ワイシャツを二枚きてるぜ、おじいさん。
しまった、センサーと隣室の人の独語で起きた同室の利用者が立ち上がりや歩き出しの多い人で徘徊しちまう!
そうして、疲れやすい◯◯子さんをゆっくり六時半まで寝かせてほとんどの利用者を起こした後、自力では起きることのない、動くことのない◯◯子様のもとへ……。
「! ◯◯子さん!!」
布団、かけてあげるの忘れた。
ふだん頷くか「いいよ」か「いやだよ」としかなかなか言わない◯◯子さんも困惑の表情です。
「◯◯子さん……、ずっとこのまま(布団ナッシング)だったの……?」←当たり前
おずおずと元凶の私が訊ねると◯◯子さん、ゆっくり視線を向け、
こくり。
ごめん。ほんとうにごめん! すみません!
「ごめんね、起きようか」
移乗。
「ふぐううう!!」
魚の名前を叫んでいるわけではなくて、ホントに、動かない。
仕方ない、力を思い切り込めよう……、と思い切り介護精神からボディメカニクスのクソもない力技でトランス? に挑む。
「いいい、いたい! いたい、ああ!
いたい!」
◯◯子さんの体からギチギチと音がして、◯◯子さんが可哀想な声を出す。
仰臥位から端座位にして様子を見ると悲しそうな痛そうな表情。
どうしよう、どっかの筋とか腱とか痛めてたら!
そのまま車椅子に移乗もできず一度背をベッドに倒して様子を見ることに。
言ってしまう。
どうしてこんなに重いんだ、◯◯子さん、そして取り返しのつかないことを私はしてしまったのか。
しばらく無言のいつもの◯◯子さんに。
座って立って、車椅子乗るよ、と説明をして同意を得たいところ。
◯◯子さんは嫌そうな、不安そうな、なんとも言えない顔をしている。
「ふっ!!!!!」
また力を込めて、座位にして車椅子へ移乗。
◯◯子さんも立ち上がった拍子に足に力を入れて立ってくれる! それだけで負担が全然違う!
無事、「大御所」を車椅子へ。
四時から六時半まで布団かけ忘れてごめん。
エアコンはかけてなかったので湿気で寒くはなかったかもしれないけど自分で声を出すこともない人だから、完全に私の落ち度で大変な思いをさせた。
あらかた仕事が終わったと思い、九時半に、じゃあ、かえり、まぅす、とおずおずと主任に言うと狼狽していた。
まだなんかやり残したことがあるのかとそろりそろりと歩いて「?ー」と次の言葉を待つが何も言われない。
……帰っちゃうぞ? いいのか?
正解がわからない。
あとから
「アイツ、あれやらないで帰りやがった!」とかいわれてなきゃいいなあ。
夜勤。
ちなみに今回のワースト一位の失敗は
やっぱり◯◯子さんの移乗で本人に辛い思いをさせてしまったことと。
朝食が来てから利用者さんが挙手し、
「あのぅ、歯」
と発言され、入れ歯返すの忘れてたことと。
パットを入れるのが嫌だったのか、私の判断が悪かった、勉強不足だったのか。
ポータブルトイレにパットが破かれて中の液体に漬け込まれてボタボタになってたことですかね。
あと、おじいさんに手を叩かれたりして乱暴だなあ、と思い冷たい口調になったり。
人が見てないからってだいぶ私もふてぶてしくなりました。
あかんぜよ。
でも、夜勤手当は、でかかったぜよ。
今月も頑張るぜよ。
ごめん、◯◯子さん……ッ!! 明鏡止水 @miuraharuma30
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