第3話:「災厄の王が来るって? いや、俺は家で寝てたいんだが」
カズマたちはギルドに戻っていた。近郊の調査を終えたものの、あの巨大なゴブリン以外には目立った魔物は見つからなかった。しかし、それが「災厄の王」の前兆だと考えると、ただの不安だけでは済まない。
ギルドのテーブルに座ったカズマは、いつものように深いため息をついた。
「さて、どうするか……」
「カズマさん! 私たちが真の英雄になる時が来ましたよ! この町を守るのは、他でもないこの私――女神アクアの手によって!」
アクアが胸を張って宣言するが、カズマはその言葉を軽く流した。
「だから、お前のせいで逆に町が危険になりそうなんだって。正直、俺は今回もただ逃げたいんだけど……」
そう言いながら、カズマはテーブルの上に広げられた地図を見つめる。ギルドマスターが用意してくれた周辺地域の詳細な地図だが、災厄の王が現れるという具体的な場所はまだわかっていない。
「めぐみん、あの魔物の出現、やっぱり災厄の王と関係があると思うか?」
カズマは隣に座っていためぐみんに問いかける。彼女は手を顎に当てて考え込んでいた。
「間違いないでしょう。あのゴブリンはただの前触れです。真の脅威はこれから……でも、だからこそ、エクスプロージョンの準備を完璧にしておかねばなりません!」
「いや、魔法の話じゃなくて、どうやってその王とかいうやつを探すかの話なんだが……」
カズマは半ば呆れながらも、地図を見直した。魔物の出現場所と動きのパターンを考慮すれば、町の南西の森林地帯が怪しいという結論に達しつつあった。
「やれやれ、どうしてこう毎回、俺たちがこんな面倒なことに巻き込まれるんだか……」
カズマは頭を抱えるが、ダクネスは目を輝かせてその話に飛び込んできた。
「巻き込まれると言うな、カズマ! これは私たちが運命を切り開く戦いだ。町を守るために、全力で挑まねばならない!」
「いや、お前はただ戦いたいだけだろ……」
ダクネスのテンションの高さに呆れるカズマだったが、彼女が強力なタンクであることも否定できない。これまでも何度も彼女の頑丈さに助けられてきたのだ。
「まあいい……とりあえず、南西の森林を調査するしかないか。どうせ、他に頼れる冒険者もいないだろうし……」
翌朝、カズマたちは再びアクセルの南西に広がる森林地帯に向かっていた。この辺りは普段は平和で、たまに低レベルの魔物が出現する程度だ。しかし、今日はどこか空気が違う。森全体が静まり返り、風すら吹かない不気味な雰囲気が漂っている。
「なんか、いつもと違う感じがするな……」
カズマが不安げに周囲を見渡すと、アクアが得意げに胸を張った。
「ふふん! わかりますか、この緊張感? これはまさに神々が私たちを試している証拠です!」
「いや、そんな大層な話じゃないだろ……ただヤバイ感じがするってだけだ」
カズマはまたため息をつきながら、慎重に歩を進める。ダクネスは相変わらず無口だが、剣を握りしめ、何かに備えるかのような鋭い眼差しをしている。
「カズマ、私のエクスプロージョンを撃つには、できるだけ強力な魔力の源が必要です。もし災厄の王が現れたら、まずは私に一撃を与えさせてください」
めぐみんが慎重に提案してくる。彼女のエクスプロージョンは強力だが、一発限り。だからこそ、タイミングが重要だ。
「わかったよ。お前の出番は最後だ……絶対に暴発するなよ」
カズマはそう言いながら、森の奥へと足を踏み入れる。木々の間を進んでいくうちに、周囲の空気がさらに重くなっていくのを感じた。その時――
「……出てこい。隠れているのは分かっている」
突然、カズマが小さく声を上げた。仲間たちも警戒し、武器を構える。
すると――
「ククク……よく気づいたな、愚か者どもよ」
低く響く声が森の中にこだまする。カズマたちの前方、森の暗がりからゆっくりと姿を現したのは、漆黒の鎧を纏った巨大な男だった。顔には仮面をつけ、その目は赤く光り、体からは圧倒的なオーラが漂っている。
「おいおい、本当に出てきたのかよ……!」
カズマは思わず声を上げた。男の存在感はこれまで戦ったどの魔王軍幹部とも異なる、圧倒的なものだった。まさに「災厄の王」と呼ぶにふさわしい恐ろしさだ。
「私は、災厄の王と恐れられる存在……だが、それは人々が勝手に名付けたに過ぎない。本当の名は……まあ、どうでもいいか。貴様らをここで葬るのに名など不要だ」
王はカズマたちを見下ろし、冷笑を浮かべる。
「いやいやいや、俺たちを葬るとかそういうのはやめようよ! ここは一旦、話し合いで解決しないか?」
カズマは慌てて交渉を試みるが、災厄の王はそんなことには一切耳を貸さず、巨大な剣をゆっくりと抜き放った。
「無駄だ……貴様らの運命はここで終わる」
「くそっ、やっぱりそうくるのか! 仕方ない、みんな、準備しろ!」
カズマは仲間たちに指示を飛ばす。ダクネスは前に出て盾を構え、アクアは女神の加護を叫び、めぐみんはいつでもエクスプロージョンを撃てるように魔力を溜め始めた。
「お前ら……俺はどうしていつもこんな状況にいるんだ……!」
カズマは心の中でぼやきつつも、戦闘の準備を整えた。これがただの戦いで終わるのか、それとも更に大きな波乱が待っているのか、誰にもわからない。
「さあ、行くぞ――!」
カズマの声が響き、戦いが始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます