第2話:「頼むから、俺を巻き込むな!」

ギルドに緊張が走る。


黒いローブをまとった謎の男が発した「幹部以上」という言葉の重みが、カズマたちの胸にのしかかる。静かだったギルドの中に、冒険者たちのざわめきが広がり始めた。


「幹部以上って、一体何が来るんだ?」


「魔王そのものが来るってことか!?」


そんな冒険者たちの不安げな声に、カズマも嫌な予感を抱きながら男に問いかける。


「で、一体何が来るんだよ? 幹部以上って、具体的にどういうことだ?」


謎の男は静かにカズマの問いに応える。黒いローブの中から、鋭い眼光がカズマたちに向けられる。


「新たに現れるのは、"災厄の王"と呼ばれる存在だ。これまでの幹部たちとは比較にならない力を持つ。かつて、幾多の英雄たちが挑んだが、すべて返り討ちにされたと言われている……」


「えっ、ちょっと待て。幹部じゃなくて王!? そんなの俺たちがどうにかできるわけないだろ!」


カズマは思わず声を上げた。幹部相手ですらヒヤヒヤの連続だったのに、それ以上の存在が現れるなんて冗談にも程がある。


「カズマさん、これは大変ですよ!王が来るなんて! でも、ここは女神である私に任せてください!」

自信満々のアクアが腰に手を当て、胸を張る。


「お前が言うと余計に不安になるんだよ……」


カズマは肩を落としながらも、やれやれとため息をついた。ここまで来たら、どれだけ嫌でも巻き込まれるのは避けられない。


「それで、その災厄の王とかいうやつ、どこにいるんだよ?」


「それは……まだ確定ではない。ただ、最近アクセル近郊の魔物たちが異常に活発化している。何かがこの地に迫っている証拠だ」


男はそう言うと、ゆっくりとギルドの出口に向かって歩き出した。


「お前たちの動向はすでに多くの者に注目されている。この町を守るか、それとも逃げるか……決断は急いだ方がいい」


その言葉を残し、男は静かに去っていった。


「……どうする、カズマ?」


ダクネスが真剣な表情で問いかける。彼女はいつものように興奮する様子もなく、珍しく冷静だ。しかし、その眼には戦いへの強い決意が宿っている。


カズマは腕を組み、しばらく考え込んだ。これまでの経験から考えても、絶対に逃げられないだろう。魔王軍の幹部と違い、その「王」という存在が本当に現れたら、ただ逃げているだけでは町全体が危険にさらされることになる。


「……ちくしょう、やるしかないのか」


カズマは静かに覚悟を決めた。どうせアクアやめぐみん、ダクネスのせいで巻き込まれるに決まっているなら、せめて先手を打って対策を練る方がマシだ。


「仕方ねえ。とりあえず町の周辺を調査して、どんな状況なのか確認してみるしかないな。もしかしたら、ただの噂かもしれないしな」


「カズマさん、いつもより前向きじゃないですか!」

アクアが目を輝かせる。


「前向きなんじゃなくて、どうせ逃げても無駄だって悟っただけだよ……」


そう呟きながら、カズマは立ち上がった。




カズマたちは町の外れにある森にやってきていた。ここ最近、魔物の活動が活発化しているという情報を得て、まずは自分たちで確かめに来たのだ。


「やれやれ、こんなところで何か見つけても面倒なことになるだけだってのに……」


カズマは草むらをかき分けながら文句を言うが、背後ではめぐみんが楽しそうに呪文の詠唱を始めていた。


「カズマ、見てください! 今日は絶好のエクスプロージョン日和です!」


「お前、ただ魔法を撃ちたいだけだろ……。敵も見つかってないのにエクスプロージョンするなよ」


「ふふふ、でも、もし魔王軍が現れたら、最初の一撃は私に任せてください!」


めぐみんが自信たっぷりに言うが、カズマはそれを無視してさらに歩みを進める。ところが、その瞬間――


「ぐおおおおお!」


突如として、茂みの中から巨大な魔物が飛び出してきた。鋭い爪を持つゴブリンのような姿だが、通常のゴブリンとは比べ物にならないほどの巨大さを誇っている。


「おいおい、こんなのがウヨウヨいるってことかよ!」


カズマは慌てて武器を構えるが、その直後――


「エクスプロージョン!」


めぐみんの魔法が炸裂。轟音と共に、魔物は跡形もなく吹き飛んだ。爆煙が晴れると、そこにはめぐみんが満足げに倒れている。


「……ったく、早すぎるんだよ……」


カズマはため息をつきつつも、まだ背後に潜む気配を感じ取っていた。これは、単なる始まりに過ぎないのかもしれない。謎の男の言葉が頭の中でリフレインする。


「"災厄の王"か……どうにかして、これを回避できないもんかねぇ……」


カズマは心の中でぼやきながらも、これからの展開に備えるしかなかった。


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