第1話:「まーた、魔王軍幹部ですか?」

「なんでこうも次から次へとトラブルが起きるんだよ……」


カズマはいつものようにギルドのテーブルに突っ伏していた。さっきギルドに飛び込んできた冒険者からの情報によれば、町の近くに新たな魔王軍幹部が出現したらしい。カズマの表情には明らかに疲れが滲んでいる。


「カズマさーん! こんな時こそ英雄らしく、バシッと決めてくださいよ!」


アクアが隣で胸を張りながら、まるで自分の手柄かのように言ってくる。その無邪気な笑顔にカズマは軽くため息をついた。


「英雄って誰のことだよ……俺は普通の人間だぞ。それに、俺たちの財産もそんなに多くないし、余計な戦いなんてゴメンだ。俺はただ、平穏な生活を送りたいんだよ……」


そう言いながらカズマは自分の財布を取り出し、中を覗き込む。見事にスカスカだった。どうせアクアのせいでまたギャンブルに使われたに違いない。何度繰り返してもこのパーティに財政安定なんてものは訪れない。


「そんなこと言わないでよ、カズマさん! 今日もギルドでみんなにドリンク奢ってもらったじゃないですか!」


「それは俺の奢りっていうんだよ! アクアが勝手に注文したんだろ!?」


カズマのツッコミに、アクアは「だって、皆喜んでくれてたじゃないですか~」とへらへら笑う。完全にいつものことだ。


しかし、そのやり取りに割り込んできたのは、ちょうどその時、静かに座っていたダクネスだった。


「……新たな魔王軍幹部か……どんな強敵か楽しみだ……!」


ダクネスは眼を輝かせ、独特の震え声を抑えきれずにいる。彼女の妄想癖は今にも暴走しそうだったが、カズマは冷ややかな視線を送るだけだった。


「お前は戦いに飢えすぎだろ。普通は魔王軍幹部なんて会いたくもないんだよ……」


そう愚痴りつつ、カズマは残りの一人、魔法使いのめぐみんに視線を移す。めぐみんは、そんな会話には耳を貸さずに、何やら難しい顔をして考え込んでいた。


「めぐみん、お前まで考え込むとは珍しいな。どうした?」


「……カズマ、この幹部、少し妙です。私の魔力の感覚が告げています。今までの魔王軍幹部たちとは違う、もっと大きな力を感じます。もしかしたら、私のエクスプロージョンでも……」


「おいおい、冗談だろ? めぐみん、お前のエクスプロージョンで倒せないなら、俺たちは終わりじゃないか!」


カズマは額に冷や汗を浮かべ、めぐみんを見つめる。だが、めぐみんの表情は真剣そのものだ。


「カズマ、この幹部、ただの敵ではない可能性が高いです。私たちの力だけでは、もしかしたら……」


そう言われて、カズマは頭を抱えた。どうしてこうも毎回厄介なことばかり起きるのか。そもそも、彼はただ普通の生活を送りたいだけなのに、何故こうも異世界の厄介事に巻き込まれ続けるのか。


「ったく、これだから異世界は……」


カズマがつぶやいたその瞬間、ギルドの扉が再び開いた。今度は、黒いローブに身を包んだ男が静かに入ってくる。まるで異世界ファンタジーそのもののキャラクターのような姿だったが、どこか異質な雰囲気を放っていた。


「……私は、お前たちに警告しに来た。新たな幹部……いや、それ以上の存在がこの地に迫っている」


カズマたちの視線が一斉にその男に向く。彼の言葉は重々しく、ただならぬ危険を感じさせる。


「……幹部以上? 一体何が来るってんだよ?」


カズマは再び頭を抱えたが、内心ではすでに覚悟を決めていた。ここから、また厄介な冒険が始まるのだろう――逃げられない運命と共に。

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