織愛 4

第4話

「蓮さん、仕事、整備士か何か?」

「い~や。土木関係」

「そうなんだ。ツナギで積載車だからてっきりそうかと」

「一人親方って知ってるか? 社長兼作業員兼事務員兼雑用係」

「聞いたことはあるかな」

 蓮の言い方にくすっと笑って、蓮のガタイがいいのはそのせいもあるのかと、織愛は納得した。


「しがない個人事業主だよ」

 かと言って、その言葉に自分を卑下するような感じは受けなかった。


「独立してるんだからすごいっすよ。俺は無職の風来坊だから」

 ──目的のない旅。どこまで行くのか、帰る場所もない。


「なんだそれ? 仕事もしないで好きなだけ旅ができるってのまさかどこかの御曹司か?」

「そんなんじゃないっす。まあ、そのうち気に入った場所見つけたらそこに住んじゃうかもしれないし」

「へえ。お前、出身は?」

「ん~。東北ですけど。帰る家はない、かな」

「ふうん」

 蓮はそのことについて詳しくたずねようとはしなかった。


「どのくらい旅してんの?」

「そうですね、三、四ヵ月ってとこかな」

「へえ、どんなとこ行った?」

 興味深そうに蓮がたずねた。


「かなり適当。SNS見て何か美味しいものとか面白そうなものがあればそっちへ向かうって感じ」

「行き当たりばったり、か。羨ましいな」

「え? そう?」

「俺から見たら、な」

 話している間に、郊外を走っていた。


 空は蒼い色に深く染まり、街灯の灯りで周囲が滲む。市街地に入ってからしばらくして蓮が言った。


「着いたぞ」

 

 積載車は、一旦ハザードを点けて停まり、車庫というより倉庫という方が合っている場所にバックで進入した。


 ──うわあ、なんだか上手い。

 切り返すこともなく一発で蓮は車を定位置──おそらく──に収めた積載車を降りると、蓮は荷台に載せたままのバイクからタンデムシートの防水バッグだけを外してきた。


「こっち。遠慮しなくていいからな」

 痛みのある脚をかばいながら車を降りた織愛に、母屋と思しき方を指さして蓮が言った。

「お世話になります」

 織愛は手繰り寄せたタンクバッグとヘルメットを助手席から降ろし、蓮に続いて家の中へと入る。


 玄関のようすを見ると、他に家族がいる気配がない。家の中は整然としていて、生活感もあまり無い。


「ここを使うといい」

 入ってすぐの左側の部屋を、蓮が指定した。


「どうも」

「今、布団を持ってくる」

 蓮はそう言って、部屋を出て行った。


 織愛は持ってきたバッグとヘルメットをテーブルの上に置き、ぐるりと部屋を見渡す。造り付けのクローゼット。サイドボードと一見してわかる型落ちのCDプレーヤー。マットレスだけのベッド。20インチくらいの液晶テレビ。一人掛けの木製の椅子とオットマン。一通り家財は揃っている。


 ──ビジホより環境いいかも。

 助けてくれたのが彼で良かった、としみじみ感じる。


 ──さて、と。

 先ずは脚の状態だ。明日になって痛みが引けばよし。

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