朱色

1

 睦が最後まで言わなくても、和はすでに選んでおいた番号の発信ボタンを押した。


「英華? 睦帰って来たからさ、集まろうって。うん、待ってる。──オッケーだって」

 和は英華の了解を得たことを、電話をオフにしてから睦に伝えた。


「分かった。良かった、全員揃う」

「ん」

 和は、二人が電話をしている間、一切口を開かなくなった收が一言一句聞き漏らさないようにでもしていたように見えて、興味深げな視線を收に向けた。


 睦、武琉、和、英華、慎。ずっと行動を共にしてきた仲間だ。睦と武琉は学年が一つ上で、あとの三人は同級生であり、幼馴染だ。


 学年の違う者同士でつるむようになったのも、睦と和が双子であることに尽きる。 日付をまたいだ出生について、暗黙の了解に因る融通とか偽造は為されなかった。両親がありのまま、そのとおりに届け出をしたのは、笑い話だよねといつも前置きした上で語られるが、入学や進学などの大きなイベントの度に、一遍に二人分の費用が掛からなくていいという発想だったらしい。


 結局、睦と和は学年が分かれることになったのだが、しかしそれが兄妹の関係に先輩後輩という影響を与えることはなかった。


 睦の友達と和の友達が何となく一緒になりグループで行動するようになったというのが実際のところだ。


「いつも五人で?」

 收が睦に訊ねた。


 帰省してすぐに集まろうとする仲間とは、いったいどれだけの親密さなのか知りたいと思った感が見受けられる。


「割といつもいたよね。睦たちが進学するまでは。今は俺と英華と慎の三人だけどさ」

 答えながら和は、睦が收を家まで連れてきた理由を知りたいと思った。


 自分たち五人は不変の絆で繋がっているのだと思っていた。


 睦は今はまだ何も言わないだろうと和には分かる。話すならとっくに説明しているはずだ。なら收に言わせよう。自分たちの結束の強さをアピールすれば、收は何等かの反応を見せないだろうか。


「双子なんだよね、学年分かれて大変じゃなかった?」

 收が、睦と和、交互に見て訊ねた。


「別に、ねえ?」

 和が睦に向かって同意を求める。


「ああ、こいつ何でも俺と一緒にやりたがってたから、教室とかが別になる以外は同級生みたいなもんだったよな」

 授業を受けるクラスと進度が違うだけで、和は可能な限り睦と同じことをしたがった。


 当の本人たちはそれが当たり前のように思っていて、学年が一緒なら良かったなどと駄々をこねたことはない。和にとっては一年早い予習をずっと続けてきたようなものだった。


「へえ、そうなんだ」

「まあ、俺らの学年のやつは、和のこと態度のでかい下級生って思ってたやつもいたみたいだけどな」

 上級生に対してもタメな和の何かのエピソードでも思い出したのか、睦がくすくすっと笑った。


 両親が二人を育てることに対して男女差を行使しなかったこともあり、当然洋服や身の回りの品々などもそれぞれの好みが尊重され、DNAの為せる技なのか、睦と嗜好の同じ和が性自認を女性と意識しなくなっていったのもごく自然な流れだったのかもしれない。

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