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「へえ~」

 收の、睦の部屋に入って開口一番がこれだ。


「それ、どういう反応?」

 そう訊ねはしたが睦には大方の予想はつく。


 收が知っている、睦のアパートの部屋には最小限のものしか置いていなかったからだ。高校までの人生を過ごしたこの部屋は、それとは明らかに様相を違えていて、睦の趣味や嗜好が一瞬で判るような世界を構築している。


「うん。意外ってば意外。でも、そうだね、ああ~、解るわ」

 本棚に並ぶ書籍のタイトルや、ガラスケースの中の小規模なコレクションや、部屋の隅に立てかけてあるギターなどをいちいち見渡して、收はうんうんと頷きながら答えた。


「先に昼飯喰おうぜ」

 睦は折り畳みの小さなテーブルを設置して、收に座るよう促した。


 コンビニのレジ袋の中身をテーブルに並べる。炭酸のペットボトルを開けようとして睦は手を止めた。廊下の足音が聞こえて、すぐに和の声がした。


「睦、コーヒー」

 睦が立って行きドアを開けると、和が三人分のコーヒーカップを乗せた大きなトレイを両手で持って、にやりとした笑みを浮かべ、小さくウィンクした。


 收を観察する気だな、と分かる。


「さんきゅ。座れよ」

 睦はさっき座っていた場所から少し收の方に移動して座った。睦がトレイからカップをテーブルに移すのを待ち、それから空いた所に和が腰を下ろす。


 和がカップをそれぞれの前に並べていくのを、收は興味深げに見ていた。


「さすが双子。そっくりだね~。いただきます」

 半ば嬉しそうな感想を口にして、收がカップのデザインを一渡り眺めてからコーヒーを口にした。


「区別はつくだろ?」

 睦は総菜パンの中から一つを選んで和に勧めながら、收に訊ねた。


「うん、判る。おんなじ服着て、おんなじポーズ取っても多分判る」

 自信たっぷりに收が言う。


「お、いいねえ。そうでなきゃ」

 和がパンの袋でブランドを確認してから言い、開けた袋から少しだけ出してパンにかぶりつく。


「おっとそうだ」

 思い出したように睦がスマートフォンを取り出した。


 電話帳をスクロールさせた手を止め、発信を押す。睦の動作のひとつひとつを、まるですべて記憶しようとしているかのように收が見つめている。


 睦が何をしようとしているのか見当がついていて、和もポケットからスマートフォンを取り出し、自分の脇、絨毯の上に置いた。


「──、うん、来いよ。慎にも言ってある。うん、じゃあ」

 着信の画面で睦からだと分かったのだろう。多分電話の相手は武琉たけるで、言いたいことをこっちが話し始める前に話し始める、いつものパターンだ。


 おそらく、「睦帰って来たのか? 今から行く」辺りの言葉だろう。


英華あやかも」

 通話を切った睦は、和に向かって言った。


了解りょ

 答えるよりも先に和が脇に置いたスマートフォンを手にしていた。

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