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「ああ、慎はちかの同級生。高校ん時の仲間だ。こいつはしゅう。学部が一緒で……」

「今一緒に住んでるんだ」

 言い終わらないうちに、收が睦の後を引き取って言った。


「……、あ、どうも初めまして」

 思いがけない睦の近況は、頭を何かで殴られたようなショックを慎に与えた。かろうじて当たり障りのない挨拶をする。


 ──一緒に住んでいる──?

 睦の双子の妹である和からは、進学後の彼はアパートの独り暮らしと聞いていたが、はやりのルームシェアでも始めたのだろうか。


 慎は、睦がばつの悪そうな表情を見せたのも、收が探るような視線で慎を見たのにも気づかなかった。


「よろしくね」

 どこか本音の見えなさそうな笑顔で收が慎に答えた。


「慎、あとでうち来いよ。みんなにも声掛けとくからさ」

 それ以上の会話は慎の仕事の邪魔になるとの配慮だろうか、それとも慎には聞かせたくないような不都合な話題が出るのを避けようとしたのか、睦は近くにあった店内カゴを取って收に手渡し、慎に言った。


「はい。じゃあ後で」

「お、これこれ。收は?」

 睦が、そこに立っている慎のことを避けもせずすっと手を伸ばし、慎の身体をかすめるように棚に手を伸ばし、トッピングに粒コーンがたっぷりと乗った総菜パンを取り、收の持つカゴに入れた。


 促すようにして收と共に壁側の通路へと移動する。


「僕はバーガーにしようかな。あ、プリンタルトもどう? 睦、好きでしょ」

 思わぬニアミスの余韻にドキドキが止まらない。背中側で交わされる二人の会話を複雑な思いで聴きながら慎は品出しを続けた。


 何だか睦が自分の知らない世界にいるような気がした。卒業生と在校生は、たった半年かそこらでずいぶんと違う時間を過ごすようになったのだと改めて実感した。


 振り返りたかったけれど、じっとこらえて慎は仕事に集中しているふりを続けた。その間に睦と收が店内を一通り回ってレジに向かった。


「お~お~、睦くんじゃないか。元気だった?」

 もちろん睦はともさんとも馴染みだ。


「おかげさまで」

「ご両親、久しぶりに会って大喜びだろう?」

「あ~、いや、まだ。これから帰るんで」

「あ、そうか、そうか」

 どうやら彼らは帰宅する前にここに寄ったらしい。


 收が会計をするのを、慎は視界の隅っこでとらえた。


「ありがとうございました」

「ありがとうございました」

 ともさんに続いて営業用の発声をする。


 慎に向かって睦が小さく手を上げ店を出て行くその背中を、慎はずっとは見つめていられなかった。品出しの終わったパンのケースを片付けているとともさんが話し掛けてきた。


「睦くん、大人っぽくなったねぇ。なんか垢抜けしちゃって」

「だね」

 慎はようやくそれだけ答えた。

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