第一章 プロローグ:夜明けに泣く

 毎夜々々悪夢を見る。


 街中に響く叫び声は雷のように轟き、一瞬間の内に消え去ってしまう。幾度も、幾度も、夢が終わるまで鳴りやんでくれない。


 命が次々と散っていく。私が命を摘んでいる。


 あぁ、哀しいかな。命が刈り取られるその刹那、血しぶきが花のようで、ひどく美しかった。


 城壁の西門――次の瞬間、東門。視界は次々と逡巡する。剣を振るうたび、また一輪、また一輪、花が咲いては散っていった。


 ——嫌だ。

 ——やめて。

 ——死にたくない。

 ——人殺し。


 憎悪がを睨んでいる。震える手、竦みそうな足。それでも私は剣を振るうことを止めなかった。


 命が次々散っていく。


 悪夢の瀬戸際、夢の舞台の街には私ただ一人が佇んでいた。夜明け前の、街の静けさを忘れてしまいたい。


 思えば、良い夢というやつをは見た記憶がない。ひょっとすると、ただ私が「良い夢」というやつを忘れてしまっただけかもしれないが。それでも、つくづく思わされる。


 運命というやつは残酷だな。



 この悪夢を見る前は、


 思い出したくもない。幼少の頃のトラウマだった。

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