顕微鏡に切り出された構造美と機能美

第5話

既に完成しているワクチンの製造法は、厳重な管理下にあった。この世に存在していることの知られていないそのワクチンを接種したただ一人の男は、目の前に繰り広げられるナノ世界の闘いに、狂気に満ちた笑みを浮かべて見入っていた。


 もう少しすれば、過去最大級の危険性を持つヴァイラスが世界各地で一斉に猛威を振るい始めるだろう。


 男がいったい何の目的でそういう行動に出たのかは、他の誰の知るところでもなく、いや、彼自身でさえ本当の理由は分からないだろう。


 何かに突き動かされるまま、本能のまま、行動の結果がいったいどれだけの悲劇を引き起こすのかなどほんの僅かも意に介さず、おぞましくもあり同時に美しさをたたえた極小の世界にただただ魅了されていた。


 仮にこの世に一人きりになったとしたら……、それでも彼は心が求めるままに、通常では目に見えない世界を愛し続けるのだろうか。

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