第37話

早く起きたせいでいつもより早く駅に着く



1本前に乗れそうだ



改札を通ってホームへ行くと、五十嵐が電車を待っていた



一昨日送ってもらったことを思い出す



何だか気まずいな……




私はそう思いながらも、



「金曜日はありがとう」



と素直にお礼を言った




「別にいいですよ」



素っ気ないけど微笑んで返事をする五十嵐



すると、アナウンスが流れて電車が着いた




いつもより混んでいなくて点々と空いている席が見える



すぐだから立とうかな……



そう思っていると、先に入った五十嵐が空いている席に座った




………?



私の方を見て手招きしてる?




五十嵐の近くへ行くと、



「はい、どうぞ」



立ち上がって席を譲ってくれた




え?



なんだか優しすぎて怖い




「いいよ、座って」



遠慮して断ると、



「俺は若いんで」



意地悪な顔で憎たらしく言って来る




「どうせオバさんですよ」



席に座ると、五十嵐は私の前に立った



五十嵐ってやっぱりすごい良いヤツなのかな



あんな姿を見て、私を可哀想だと思ってる?




そんなことを考えていると、電車に揺られてウトウトしそうになる



なんだか隣に座っている若い女の子がざわついているな……



今時な格好をしてるけど……大学生?




「あの人またいるよ、本当カッコ良いよね」



「声かけようかな」



そうか、五十嵐を見て盛り上がっているんだ



まるで芸能人じゃん、すごいな……




ニヤニヤと五十嵐の顔を見るとすごく嫌そうな顔をする



すると、



「すみません」



ついに女の子の1人が五十嵐に声をかけた




「なんですか?」



意外と普通に返事をする




「連絡先を教えてくれませんか?」



女の子が勇気を出して言うと、



「なんで?」



威圧的な言い方をして、受け付けないオーラが出ているのが分かる




「えっと………」



顔を赤くして困っている女の子



五十嵐は迷惑そうにしている



アイコンタクトで冷やかすとすごい剣幕で睨まれた




すると、会社の最寄り駅に着いてドアが開く



「俺、彼女いるんで」



そう女の子に残して電車を降りる



え、本当は彼女いるんだ



私も電車を降りると、五十嵐はスタスタと早歩きで行ってしまった



冷やかしたから怒ったのかな

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