第27話

しばらく沈黙のまま歩くと、私のアパートに近付いた



五十嵐の家はどこなんだろう



たしか駅の近くに社宅があった気がする



わざわざ送らせてしまって申し訳ない




「もうここでいいよ、ありがとう」



「いいえ、大丈夫です」



結局アパートの下まで送ってくれた




「帰り気をつけてね」



「近くなんで大丈夫です」



そう言って逆方向に歩いて行く



本当は良い奴なんだろうな……




私はバッグから鍵を取り出すと、携帯電話が光っているのが見えた



涼真かもしれない



淡い気持ちを抱いて画面を見ると



”着信1件 田中冬馬”



田中くんからか……



もう遅いから明日連絡しよう




愛未を起こさないように静かに中に入ると、奥にあるリビングの灯りが点いていた



「ただいま〜」



「憂佳、おかえり」



私の顔を見た途端、驚いた顔をして駆け寄って来る




「どうしたの?大丈夫?」



優しい言葉をかけられてまた涙が出そう



涼真とのことを全部話すとやっぱり途中から泣いてしまった




「涼真のバカ野郎、莉奈も最低だね」



話を聞いて怒り出す愛未



でも、莉奈は知らないから仕方ないよね




「莉奈は悪くないよ?」



私がそう言うと、愛未は険しい顔で首を振る



「莉奈、二人のこと知ってたよ」




え?



私達のことを知ってて涼真と?



ショックで言葉が出ない

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