第26話

「送って行きます」



「そんな顔して一人で帰ったら襲われますよ?」



顔を隠している手の隙間から五十嵐を見ると、心配そうな顔をしている



心配してくれるなんて信じられない



弱味でも握ろうとしてる?




「大丈夫だから」



そう言って歩き出しても五十嵐は後を付いてくる



何なんだろう、こんな姿見せたくないのに




「どういう風の吹き回し?」



「女嫌いなんじゃないの?」



素っ気なく言うと、



「良い意味で女として見てませんから」



今まで見たことのない笑顔を見せてくる




なんだ、可愛いじゃん



心を開き出してる?



でも、あんなに警戒されてたのに……



本当に何か裏があるのかもしれない



そんなことを考えていると、



「勘違いしないでくださいね、俺オバさんに興味ないんで」



やっぱり生意気なところは変わらない




でも、送ってくれるなんて最初の頃じゃ考えられなかった



酔っ払ってるせいかな?



顔色は全然変わっていないけど




「彼氏と喧嘩ですか?」



「喧嘩っていうか、フラれた」



別に隠す必要もないよね



私は平気なフリをしてあっさり言う



みっともない姿をこれ以上見せたくない




「泣くとか意外ですね」



「だって女の子だもん」



「え?どこが?」



タメ口で否定してくる五十嵐



本当失礼な奴……




私が呆れていると、



「主任はきっと良い人なんで、あんまり女だって意識したくないんです」



「俺本当に女性の上司が苦手なんですよ」



「警戒しすぎて失礼な態度ばっか取ってすみませんでした」



真面目な顔で言う




やっぱりそうだったのか



だから私にだけつっかかってきていたんだ



正直対応に困っていたから反省しているならホッとした



でも、そんなに警戒するなんて何があったんだろう……




「何で?何かあったの?」



理由を聞くと、五十嵐は暗い顔を浮かべる



「前の会社でいろいろ……」



端的に答えて黙り込む




私は気になって仕方がなかったけど



これ以上聞かない方が良いかな



そう思ってそれ以上聞くのを止めた

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