第21話

「そろそろお開きにするか」



席に戻ると課長が立ち上がって話を始めた



隣の席には田中くんがいる




「先輩、すみませんでした」



相変わらず長い課長の話の途中で小さい声で話しかけて来た



私は何て返事をしたら良いのか分からない



気にしてないよって笑い飛ばすのも失礼だし、はっきり告白された訳じゃないから断る訳にもいかない




私が戸惑っていると、



「今まで通りでお願いします」



そう言われて少し気が軽くなる



田中くんとは仕事で上手く付き合って行きたい



断ってギクシャクするのは嫌だ




「うん、大丈夫だよ」



私はそう言って微笑んだ



何もなかったんだと自分に言い聞かせる




課長の話が終わって店の外に出ると、



♫………



携帯電話が鳴った



”市原涼真”



の文字が目に入る




私はみんなから離れて電話に出ると、



「憂佳、歓迎会終わった?」



涼真の優しい声




「今、終わったけど……」



「俺も飲んでたんだけど今から会えない?」



会いたい



会って話がしたいけど二人とも酔っ払っているんじゃ話にならないかな



でもいつまでも逃げてちゃダメだ



こんな時しか本音を言えないかもしれない




私は意を決して、



「いいよ、涼真のアパートに行くね」



と言って電話を切った

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