第20話

「ごめんなさい、自分飲み過ぎました」



田中くんはそう言って戻って行く



私は頭の中が真っ白で何だか分からない




”俺、先輩のことが……”



田中くんの言葉がこだまする



先輩だから心配なだけかも



いや、さすがにそんなはずはない




その場に立ち尽くしていると、



「邪魔なんだけど、オバさん」



五十嵐が馬鹿にしてくるのが聞こえた



またオバさんか……



「はいはい」



ムカついたけど今は相手にしている余裕がない




「怒らないんですね、冗談なのに」



そう言った五十嵐は微笑んでいる



あれ??



私の前で笑うなんて初めてだ



笑うとイケメンが際立って見える



こんな状況でもカッコ良いと思ってしまう自分に嫌気がさした




「いろいろありすぎて余裕がない」



私が思わず本音を言うと、



「田中先輩良いじゃないですか」



軽い感じで言ってくる




「私、彼氏いるし」



「上手く行ってるんですか?」



本当憎たらしいな……




「そんなにすぐ切り替えられない」



「嘘ですよね?主任、軽そう」



「私、軽くないから!」



思わずムキになって言うと、五十嵐はまた笑う



「そんな必死に否定しなくても良くないですか?」




たしかに、部下に何を話しているんだろう



冗談も通じないなんて本当に余裕がない



それに酔っ払うとペラペラ話してしまうのは私の悪い癖




「酔っ払いすぎじゃないですか?」



五十嵐の言う通りだ



私は恥ずかしくなって、



「もう戻るね」



と言ってその場から立ち去った

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