第50話

観覧車に乗っても翔汰は暗い顔をしてしばらく何も言わなかった




「そっち行ってもいい?」



やっと口を開いた翔汰は真面目な顔をしている



「……いいよ」



すると、隣に座って私の腰に手を回してきた




そして、顔を近付けてくる



キスするのかな……



私が目をつぶると、すぐに唇が触れた




軽くて優しいキス……これって告白の返事?



いきなりのキスに頭が混乱してしまう



「…………」



私が口を開こうとすると、すかさずまた唇を奪ってくる



今度は深く重ねられて息が苦しい



それはまるで好きって言うようなキス



初めての経験にドキドキが止まらない




受け入れるのが精一杯で成されるがままになっていると、やっと翔汰が唇を離した



「えれな、好きだよ」




「……でもごめん、付き合えない」




好きと言われて目の前がパッと明るくなった



それが一瞬にして曇ってしまう



好きだけど付き合えない……



え?……どうして?





「やっぱりずっと幼なじみでいたい」



結局、3年前と変わらない



これが翔汰の出した答え?



好きっていうのは幼なじみとしてなの?



じゃあ、なんでこんなキス……




「今のは何……」



私が唇を手で抑えて訴えかけると、



「ごめん、忘れて」



「諦めるためだから」



翔汰は辛そうな顔をする



諦める?……意味が分からない




「諦めるって何?!」



思わず強い口調で言ってしまうと、



「………仕方ないだろ?」



翔汰は冷たく言い放つ




もうこれ以上言ってもダメだ



翔汰が選んだのは幼なじみでいるということ



私はそれを受け止めるしかない




「わかった……」



「幼なじみとして仲良くしてね」



強がって言ってみるけど胸が痛くて仕方がない



だって、もう仲良く出来る自信がないから




「ありがとう、今までごめんな」



翔汰はそう言って向かい側の席に座り直す



お互いに好きなのにどうして付き合えないの?



……こんなんじゃ諦められない



そう思ってもそれ以上もう何も言えなかった




「…………」



沈黙のまま観覧車が地上に到着する



私たちはその後ほとんど会話をしないまま家へと帰った

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