第26話

「マジですか!ありがとうございます!」



翔汰はパッと私から離れてパンを受け取った



笑顔を見せて喜んでいる



やっぱり誰でも良いんだ……



分かりきっていたことなのに悲しくなる



パンをあげなかったことをちょっと後悔した





「先輩、バレー部ですよね?」



「えっ!覚えてくれてありがとう、市川亜由美だよ」



「市川先輩ですね、よろしくお願いします」



「こちらこそよろしくね」




クールなイメージだけど可愛く笑っている市川さん



一目惚れとか言ってたけど、本当に翔汰のことが好きなのかな




「市川先輩って優しくて美人だよな、えれなと違って」



気付くと市川さんはいなくなっていて、翔汰が嫌味を言っている



どうせ私は可愛くない



今の私は素直になれないんだから尚更だ




「そんなこと言うなら市川さんに頼めば良いじゃん」



ムカついた私は翔汰から離れて自販機の方へ行く



すると、結菜がお兄ちゃんと二人で話していた



邪魔しないようにしよう……



階段下のスペースで隠れて待っていると、



「機嫌直して」



翔汰が後ろから抱きしめて来た




………えっ……今度は何?



私の身体を優しく包み込んでくる翔汰



嫌じゃない、むしろ嬉しいけど………



フリでここまでするなんてなんだか悲しい




「こんなとこで恥ずかしいからやめてよ」



翔汰の腕を振り解くと、



「ふーん、じゃあえれなの部屋でするから」



意地悪な笑みを浮かべて言う




「私の部屋じゃする意味なくない?」



「みんなに彼女いるアピールしたいだけでしょ?」



私は冷たく言い放つ



冷静にならないと翔汰のペースにのまれてしまう




「ケチだな……幼なじみだし良いじゃん」



私はその言葉にカチンと来る



幼なじみ、幼なじみって人の気持ちも考えないで……




「私は……幼なじみなんて……」



そう言いかけると、



「えれな、お待たせ」



結菜が嬉しそうな顔でやって来た




………危ない、思わず言う所だった



幼なじみなんて嫌だって……




結菜は翔汰がいるのに気付いて顔をしかめる



「えれなのこと泣かせたら許さないから」



「あ……はい」



結菜の勢いに圧倒されたのか、気まずそうな顔をして行ってしまった



少しは悪いと思っているのかな



翔汰が何を考えているのかさっぱり分からない

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る