1363 様々な繋がり方

 『これからどうしようか?』っと考えてると同時に、本日の奈緒さんの予定が気になった倉津君が聞いた所『日本に居る間の仕事は全てキャンセルしてる』っと言いだした。


当然、焦る倉津君!!


***


「いや、奈緒さん……」

「……って言うかね、クラ。日本に居る時ぐらい、君とゆっくりさせてよ」

「えっ?」

「アメリカに帰ったら、毎日毎日、やれ取材だの、やれライブだの言われて、それで各種イベントに借り出されるんだからさ。日本に居る時ぐらいサボったって罰は当たらないじゃない?」


あっ、そっかぁ。

歩き始めてから、奈緒さんの一声目で、本当の意味で改めて再確認したんだが。

あまりにも奈緒さんが普段と変わらない態度で接してくれてるから、ついつい忘れがちに成っちまっているが。

本当にこの人って、全米を震撼させる程の大人気ミュージシャンなんだよな。


俺なんかじゃ見えない所で、いっぱい苦労してるんだよな。


なんか俺……



「ごめん、奈緒さん」

「えっ?なに?急に?」

「いや、なんて言うのか。俺の知らない所で、奈緒さんが一杯苦労してるのかと思うと、なんか申し訳なくて」

「ふふっ、なにを言うかと思えば。そんな事も気にしなくて良いよ」

「なんでッスか?」


解り合えてないのにッスか?



「私はね、クラ。君に自慢して欲しいから、それと、君の自慢の彼女で有り続けたいからこそ頑張ってるだけなの。だから、これは私の問題。君が気負う話じゃないんだよ」

「だったら、それを共有するってのが、恋人の本来あるべき姿なんじゃないんッスか?いや、共有するからこそ、恋人なんじゃないんッスか?」

「じゃあ君は、私の恋人じゃないって言うの?そんなのは許さないよ。クラは、私だけのモノなんだから、絶対に離さないよ」

「いや、それは、そう思って頂いて結構なんッスよ。俺は、何処まで行っても奈緒さんだけのモノだから、その見解は間違ってないッス。けどッスね。ヤッパリ、苦楽を共有出来てないのは情けないッスよ」


……また俺は、自分の置かれてる不甲斐無い現状に拗ねてるんだろうな。


なにも出来ていない自分が居た堪れなくて、また拗ねてるんだろうな。



「そうだね。じゃあ、確かに情けないね」

「あぁ……ヤッパリ」

「うぅん。けど、そこは勘違いしないでよ。情けないのは、君じゃなくて私の話だから」

「えっ?」

「だってそうじゃない。あれだけのライブを一緒にやったって言うのに、君には、なにも共有して貰えなかったんでしょ。だったら、本当に自分でも情けないとライブをしたと思うしかないじゃない。ちがう?」

「えっ?いや、そうじゃなくてッスね……」

「私はね、クラ。君に楽しんで欲しいからこそ、これでも自分では精一杯ライブをやったつもりなんだよ。でも、クラには、そう感じて貰えなかった。私が自分勝手に共有したつもりになってただけなんだね。本当に、ごめんねクラ。全然、理解してあげられなくて」


この人……俺が拗ねてるだけなのに、その全てが自分の責任だと言い切るつもりだ。


それだけはダメだ!!

拗ねてる場合じゃない!!



「違ッ!!奈緒さん、そうじゃないッスよ」

「なにが違うって言うのよ?現に、そうじゃない」

「違うッスよ!!俺、久しぶりに奈緒さんとライブが出来て滅茶苦茶楽しかったッスよ。だから、目一杯、そこは共有させて貰ったッス。けどッスね……」

「じゃあ、全部共有してるのと一緒じゃない。クラが、そう思ってくれてるならね」

「いや、そうじゃないと思うッスけど。普段の奈緒さんの苦労を、俺は知らないッスから」

「馬鹿だねぇ君は。そんなの知る必要ないんだよ」

「なんでッスか?」


知らなくたって良いって言ったって。

そこを知らなきゃ、奈緒さんを解ってあげられてないだけなんじゃないのか?


どう言う理屈なんだ?



「なんでも、ヘッタクレもないよ。私達は恋人同士で有ると同時に、ミュージシャンでも有るんだよ。音楽で語り合えば、全てが解る。全てが通じ合える。普通の恋人同士とは、少し違う関係なんだからさ」

「けどッスね」

「『けど』は無しだよ。現に語り合えたって言ってくれたんなら、それは全てを共有したのも同然。……だったら後は、この時間が、少しでも多く持てる様にすれば良いだけなんじゃないの?クヨクヨしたってショウガナイんだからさ」


そっか。


解らない部分があるなら、音楽だけでも繋がってりゃあ、ある程度の共有は保てる。

なら一層の事、まずは、そこに重点を置いて、奈緒さんの所まで駆け上がれば、それで共有出来る時間がドンドン増える。


出来無い事をゴチャゴチャ考えてるのは無駄。


『前だけを向け』って事か。



……けど、これってよぉ、奈緒グリの反省会で、自分で言ってた事じゃねぇか?


もしそうなら……終わってるな俺。



「そうッスよね。……いや、そうッスよ!!そうに違いないんッスよ!!」

「えっ?なになに?急に?」

「いや、奈緒さんの言う通りッスよ。クダラナイ事を考えるのは辞めッス。奈緒さんが、それで良いって言うなら、それで良いんッスよ。俺は、それを全力で叶えれば良いだけなんッスから」

「なんだ、解ってんじゃん。大体ねぇ、君が、私を全て理解出来るなんて、7年……いや、8年ぐらい早いよ」

「酷ぇ」


しかも、年数が妙にリアルだ。


けど、あれッスね。

7~8年の間は、奈緒さんとの試行錯誤の時代があって。

そこからは、残りの余生を解り合った関係に成るってのも、中々良さそうな感じッスね。



「だから、ジックリと時間を掛けて、もっとお互いを理解し合って行こうよ」

「そうッスね。俺も、奈緒さんと一緒に積み上げて行きたいッス」


まぁ、俺なんかが、奈緒さんを理解し切ってあげる事なんかは中々難しいだろうけど。

この関係が一生続きさえすれば、時間はタップリ有るんッスから、ゆっくりと積み上げていけば良いんッスよね。



「ねぇ、所でクラ」

「なんッスか?」

「何気にクラの家の方に向って行ってるけど。なにかして欲しい事、決まったの?」


あれ?



「えっ?いや、あの……」

「ひょっとして、無意識に歩いてただけとか?」

「あぁ、いやいやいやいや。狙って、コッチに来てたんッスよ。今からベースを弾いて、奈緒さんに唄って貰おうと思ってたんッスよ」

「それ……明らかに嘘でしょ」

「はい……嘘ですね。思い付きで喋ってしまいました」


でも、そんな感じでどうですかね?


俺は、基本、行き当たりバッタリなんで。



「まぁでも、それも悪くないかもね。じゃあ、ちょっとだけ演奏しちゃおっか」

「ウッス!!」

「けど、寝ないで大丈夫なの?日曜日って、眞子が、朝から勉強を見に来るんじゃなかったっけ?」

「うわっ!!忘れてた」

「……最悪だね君」


最悪ですな。



「まぁまぁ、だったら、先に仮眠しなよ。勉強は、頭がボケ~~っとしてたら、身に入らないしさ」

「……そうッスね。面目ないッス」

「うん。受験生だから、しょうがない、しょうがない。……その代わり、一緒に布団に入れて貰うけどね。それぐらいは良いでしょ?」

「ウッス!!勿論ッスよ」


女神か、この人?


ただ俺が仮眠するだけなのに、添い寝までしてくれると言うご褒美付きとは……マジで女神だな!!


……ってかな。

結局の所、奈緒さんが一緒に居てくれれば、なんでも俺は幸せなんだな。


これじゃあ、等価交換も糞もねぇやな。


***


 ……だが、この回答は安易だった。


この後、俺は、本当に思いも拠らない事件に巻き込まれる羽目に成る。


最低最悪な事件に……


***


次回予告。


……チッ!!


次回。


『Ira』

「怒り」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【後書き】

最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございますです♪<(_ _)>


仲良しカップル、仲良しカップル♪

意見の喰い違いなんかがあっても、それがお互い相手の事を想っての意見であるならば、それは仲が良い証拠。


ナンダカンダ言いながらでも、ホント良いカップルだと思います♪


……とは言ったものの。

なにやら最後の最後で、倉津君がおかしな言葉を吐いていましたね。


この真相は一体、なんなのか?


それは次回から始まる第一章・第八十三話【Ira(怒り)】っで書いていきたいと思いますので。

良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る