第2話

「…誰ですか?」


恐る恐る聞いてみたら、ハイネックのテックウェアを着た人が口を開いた。


「君こそ誰だい?」


それに続いてパーカーを着崩した人が答えた。


「先に名乗るもんが礼儀だよねぇ」


「はぁ?」


よくもまぁそっくりな見た目だけあるわ。

性格もそっくりだな。

それにしてもなんて失礼なやつなんだ。


「そこまで。お客様なんだから」


ショートカットのチャイナ服を着た人がそっくりな2人をなだめている。


「なんだ、お客様かい。そう言えよ」


「そう言えば、急に来る人みんなお客様だねぇ」


「お客様って…俺?」


俺は困惑しつつ聞いた。


「他に誰がいるのさ」


「それともぉ、バイトぼしゅーってやつぅ?」


この2人…なんかイライラすんなぁ

その瞬間ショートカットの男が喋った。


「申し遅れました。私達はなんでも屋。ココでは貴方様が欲しいもの、その3つの中からどれか1つだけ、なんでも差し上げます。」


「なんでも屋…」


なんでも屋って、あのなんでも屋か?

今日ソウタが熱弁してた、あのなんでも屋か…?

未だに信じられない。

もしソウタの言葉が本当だとしたら、俺が必要としてるものって…

毒薬、酒、ナイフ…か。

俺、こんなもの必要だったっけ?

変なもの持ってっても叔父さんうるさいし、いっか。


「いやまぁ、なんていうか、俺、多分何もいらないっす。帰りますね。」


帰ろうとしたが、この空間、どうやって帰るんだ?


「お客様ぁ。もしかして、帰り方わかんないのぉ?」


「どうやって帰るんだ。俺を家に帰してくれよ」


「おや?お気に召しませんでしたか?」


その瞬間背筋が凍るような気がした。

空気が静まり返り、それに重たい。


「な…なんなんだよ。お前、何が言いたい」


するとショートカットはニヤリと答えた。


「私、春といいます。この子達は双子のシロとレンゲです。」


「聞きたいことはそういうことじゃねぇ…無いです!その、なんかふくみのある言い方をしてたので」


危ない、取り乱してしまうところだった。

さっきの双子のイライラが爆発してしまったみたいだ。


「その選択に、後悔はありませんかと聞いているんです。なんせこのなんでも屋は、お客様が1番必要とするものを用意しているのですから」


「俺がほんとに、こんなもの必要だと思うんですか?」


「えぇ。少なくとも私たちは…ね」


「そうさ」


「だから君がきたんだよぉ」


「…俺が、来た?」


双子はうんうんとうなずいている。


「お客様が必要とするものを置いてるのさ」


「だからお客様が惹かれないはず無いんだよぉ」


双子は顔を合わせて「ねー」と首を傾けている。


「お客様もしかして、ここに来る前に何を言ったか覚えていらっしゃらないのですか?」


…ここに来る前。


「お客様がしにたいと言うから、こちらで物を用意したんですよ?」


「お前、俺にしねって言ってんの?!初対面だぜ?!」


あまりの驚きに敬語を忘れてしまった。


「…すみません」


「別に私達はお客様にしねと言っているわけではございません。ただ必要としているものを用意してるだけなので、それをどう使うかなんてお客様次第なのです。」


「なるほど、あなた達、無責任なんですね」


「それについてはノーコメントにさせていただきます。」


なんだここ、変わり者しかいないのか?


「それでお客様、お決まりですか?」


…この中から1つ、ね

そこで俺はもう少しちゃんと物をみることにした。

この毒薬…錠剤なのか。


「痛っ」


このナイフ、ほんとによく切れるんだな。

それをみて双子はクスクス笑っている。

本当になんなんだ、あの子達は。


ナイフだと証拠を残しやすいからなぁ。


酒…


そう言えば一度に多くのアルコールを摂取すると急性アルコール中毒になると聞いたことがある。

…これなら


「これにします」


一瞬、春さんがよりニヤっとした気がした。


「毎度あり」


そう言われ、気づいたらさっきのところにいた。

外はすっかり夜だし、今日は帰ろうかな。

最近金を渡したから、叔父さんも今日は女のところに行っているだろう。






家に帰ろうとすると、家の電気がついていることに気づいた。

まさか、叔父さんがいるのか?

まだちょっと寄り道しようかな。帰り遅いとうるさいし、痛いし。


「…あ」


俺の片手に一本の酒瓶が握られていることに気づいた。


「ただいま」


「おい遅いじゃねぇかよ!」


そう言われて、いつものごとく空いた日本酒の瓶を投げつけられた。


「ごめんね、今日は買ってきたよ」


俺は手に持っていた酒瓶をとられてしまった。

だがこれで良いのだ。

叔父さんは勢いよく酒瓶を呑み干す。

アルコール度数が高いのに、そんなに一気に呑めるものなのだろうか。



その後、叔父さんはうずくまってそのまま死んでしまった。

だから後処理は警察に任せることにした。

そこで事情聴取されたが、俺は叔父さんがアルコール中毒である事、そして酒を買ってこないと殴られること、というアリバイのおかげで怪しまれることはなかった。








 

次の日、またみんなで集まって飯を食っている。


「あー、バイトどうしようかなぁ」


「どうしたハルト、バイトで悩んでんのか。俺のとこ来るか?稼げるぜ」


「…お前のバイトはなんか、いいわ」 


「おい!いくら俺がイケメンだからって、ホストはやってないぞ!?」


「アキトが…ホストじゃない…だと…!?」


リュウガが衝撃を受けている。


「お前、ホストだと思ってたのか?」


リュウガが食い気味にうなずく。

アキトが頭を抱えている。


「だいたい、俺らまだ高校生だし、酒を扱う店はダメだろ」


闇バイトしてた俺が言えることじゃないか。


「確かに!ハルトかしこーい!」


こいつ、ほんとにどうしようもないな。


「求人サイトでも漁ってみたらどうですか?決まるまでなら日雇いもできますし」


「そうしよっかなぁ」


そう思った瞬間、見覚えのある空間に来た。


「…あ?」


俺の目の前には何もない。

振り返ると、前と同じように机に頬杖をついている春さんがいる。


「おや?君は昨日の…どうでしたか?うちの商品」


「そんなことより、なんで俺またここに?」


「それは…」


春さんは双子に目配せした。


「こいつらが?」


すると双子は興奮気味に言った。


「こいつらとは失礼だな。」


「あと、僕じゃないよぉ」


あいつじゃない?てことは


「僕さ。」


口を開いたのはテックウェアの方だ。


「お前か」


「お前とはなにさ。僕はレンゲ、こいつのお兄ちゃんさ」


するとシロであろうほうがキレた。


「こいつとはなんだよ。僕は立派なお前の弟なんだぞ」


「だってシロ、あんまり役に立たないじゃないか。」


「なんだってぇ?!」


喧嘩が始まる前に仲裁に入った。


「落ち着けよお前ら。そんなことより、レンゲ。なんで俺の事ここに呼んだんだよ」


「だって昨日、お酒をなにに使うか気になったんだもの。でもよくみたらみたことある制服だったからさ、思い出すまで監視しようと思ったのさ。」


「で、思い出したのか?」


「いいや全然。でもバイトが欲しいって言ってたから、ここでやらないかなぁって」


「…ここで?」

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