なんでも屋
ざくざくたぬき
第1話 なんでも屋
ねぇねぇしってる?なんでも屋
なになに?
いつもの女達がまた噂話を口にしている。クラスで1番目立つグループだ。いわゆる1軍ってやつだ。
最近よく耳にする“なんでも屋”。名前だけ聞くが、内容までは知らない。
「よぉ!ハヤト!なにボーっとしてんだよ!あ、いつもか。なんか、ごめんな?」
「お前、マジ黙れよ」
親友のリュウガはいつも自己解決している。そのせいで誤解がうまれてしまう。
ある日、気分でジュースを飲んでたとき、
「お、お茶じゃない?!なんでだ!あぁそうか。イマドキ男子ってやつか!おっしゃれ~」
とか、
あくびして涙を拭いてるとき、
「おぉおぉどうし…あぁ、ハムスター、死んだのか。大丈夫だ。俺がいるからな」
とか言って抱きついて来たけど、冷静に考えて、俺、ペット飼ってないし。
イラつくやつだがいいやつでもある。
高校からの付き合いだが、親友と呼べる関係になっている。
「あぁそうだ。お前んとこのハムスター。新しくしたのか?」
だから!!!!俺!!!ペット!!!!飼ってないんだよ!!!!!!!!!
と叫びたいところを我慢し、
「俺、ペット飼ったことないんだけど」
と、優しく教えてあげた。
「お前…そうだよな。俺が悪かった。辛いよな。わかるよ。」
「だからさぁ!」
思わず大きい声が出てしまった。
慌てて声を戻して答えた。
「お前、俺んちでペット見たことあるかよ?」
「そう言えばなかったなぁ…俺、何と勘違いしてんだろ…まぁいいや!良かったな!誰も死んでなくて!」
ほんと能天気なやつだ。
でもこのやりとりが、毎日とても楽しい。
昼休みに俺含め4人で飯を食べてるとき、リュウガが口を開いた。
「なぁ知ってるか?なんでも屋って!」
最近よく聞くなんでも屋。
みんな「まぁ聞いたことあるよ」ぐらいの反応だった。
「なんでも屋…!僕、知ってますよ!」
メガネのソウタが興奮気味に口を開いた。
ソウタは勉強熱心でちょっとオカルト好き。いわゆるガリ勉ヲタクだ。
「みなさんがよく聞くなんでも屋…何をしているのか一切不明…この真相を!わたくしソウタがお答えしましょう!!!」
ソウタの変なスイッチが入った。
2人も口笛を吹いたり手を叩いたりして盛り上げていた。
「よ!我らがソウタ様ぁ〜」
金髪で派手な髪型の、一見ホストに見えるこの男はアキト。
本当はホストやってるんじゃないかってくらいナンパしたり今みたいに盛り上げたりする。
ソウタは落語家のようにベラベラ喋りながら身動きしてウニョウニョ動いている。
俺にとってはその動きのほうが気になって話に集中できない。
「単刀直入に言いましょう…なんでも屋とは!欲しいものをどれか1つだけ頂けるちょー有り難いお店なのです!」
欲しいものをなんでも…か。
そんな夢のような話あるのだろうか?
「そのなんでも屋ってどこにあるんだ?」
ここで一瞬ソウタの目がギラついた。
「それがですねぇハヤトくん。どこという場所はないんですよ。ただ、何かを本当に必要としてる時に、ふと気づいたらなんでも屋にいるって感じらしいです」
本当に必要としているとき、か。そんな不思議な話現実にあるわけないだろう。
「いや、それは嘘だよソウタ」
リュウガが真剣な顔をして反論した。
「だって…だって俺!彼女欲しいのに出来ねぇんだもおおおおおん!」
「大丈夫だって。お前にもいつかできるよ」
アキトがなぐさめているが、アキトだからあまりなぐさめにならない。むしろどこかあおっているようにも見える。
「あああ!お願いします!彼女下さい!」
天を仰ぎながら叫んでいる。
強く握られた両手にはリュウガの汗と希望が詰まっている。
放課後みんな解散したあと、俺はいつも通りバイトに向かった。
俺のやっているバイトは、いわゆる闇バイトだ。
そうでもしないと金が足らないのだ。
なんせおふくろが男遊びで家を出ていき、親父がシングルファザーで耐えきれなくなって自殺したから、俺は叔父さんと2人暮らしなのだが、その叔父さんは金使いが荒いから、いつもカツカツなのだ。
だから学費は自分で稼がなきゃいけないし、叔父さんに当てる金ないと暴力を振るわれるのだ。
だから最低限の自分の金を残して、あとは全部叔父さんにくれている。
風俗かなんかにでも行っているのだろう。金がなくなって行けなくなった時はいつも俺を使って欲求を満たすんだ。
「もう渡せる金がなくてね」
バイトに行ったらそう告げられた。
「お願いします。そこをなんとか。金が…」
「みんなそういうよ。金が金がってね。でももうこっちとしてもやりきれないんだよ。君、もう来なくていいし、早く帰りなさい」
「そんな…なんとかなりませんか?」
俺は必死に懇願した。
金がなかったら生活できないし…
「だから言ってるだろ!ないもんはないんだよ!もう帰れよ!」
そう言われて俺は追いやられてしまった。
これからどうしようか。
帰ったら叔父さんうるさいし。
「あー。しにてぇ」
「届いてますよ、贈り物。」
…!
声の出どころを探している間に、あたりは真っ暗になってしまった。
「…なんだ、これ?」
目の前には毒薬のようなものと、アルコール度数の高い酒、それと鋭いナイフが置かれていた。
「こんにちは」
後ろから声がして振り返ってみると、椅子に座って机に頬杖をついている男がいた。
その隣には男を挟むように双子らしき2人が立っていた。
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