水
黒い雲が夕日を隠した。一気に暗くなった谷間を、冷たい風が通り抜け、
川の音を背景に、震える声で
「
短い説話が終わるまで、他に言葉を発する者はいなかった。
「蛇は嫌いだ」
そう言い捨て、
「脱走兵として反省室に入りたいのか」
ぱらぱらと雨が降りはじめた。バナナの葉を叩く雫が、ぱた、ぱっ、と音を立てる。
「俺の名前、そんなに変だと思いますか」
俯く
「ぼくの名は知っているだろう。女に
「……
「君が生まれる前はそうでない時期もあった。この戦争でも、同盟国だったアルブステッラの降伏後に、アルブステッラ人は外国人収容所に入れられた」
遥か頭上でバタバタと雨粒が葉を叩き、大きくなった雨粒はすぐバナナの葉も叩き始めた。
「この間の手術を覚えているか」
*****
窓を叩く雨風が望月の輪郭を歪ませる早秋の晩。
「お父様、脚が痛くて眠れないのです」たどたどしい、高い声。
「どれ、見せてご覧」
「怪我もないし、悪いところはなさそうだ。成長痛だろう。
「同級で一番になりました。男子にも、ぼくより大きい者はおりません」
「そうか。そのうちいくらかの者はじきに君を追い越すだろうが、残りの子たちはついぞ君には及ばないかもしれないな」
「男子たちが云うのです。男みたいに大きくて気色が悪い、不気味な異人の子、と」
「少しドライブしようか」そう言って
「子供は寝る時間だ」
「どうも寝付きがよくないようで、気分転換に。父様こそこんな遅くまで精がでますね」
「冷蔵庫の調子が悪いからな。仕方ない」
「明日、修理人が来ますから」
「怖いかい」
「
「この臓器が何か分かるかな」肋骨に覆われた内蔵を指した。
「
「そうだ。では、これを見て、患者がどの国の者か判るだろうか」
ベルトルフが解剖の手を止めて
*****
「人間、薄皮一枚の下はみな同じだ」
スコールがバナナの葉を激しく揺さぶり始めた。
重い雨粒が地面を抉るように叩きつけ、文字は消えた。
スコールが土を洗い流すため、熱帯雨林の土壌は浅い。地表に張り出した板根がなけれは、巨木はその身を支えられない。
浸蝕する水に抗う仕組みなのであった。
二人が川原へ戻ると、残された三人は庇のように崖から張り出して生えた樹の下にいた。
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