実の章
畑
小屋の跡地は畑になった。少年たちが耕して「早ク実ガ成リマスヤフニ」と記す木片を立てた畑に、巨大な実が成った。
若葉の並ぶ畝を潰して鎮座するそのココナッツは、高さが
二人の少年が両手挽の
用務員が斧を担いでやって来た。
「埒が明きません、先生は下がっていてください」
用務員が刃を実の肩に当て、狙いを定めると控えめに振り下ろした。鋸よりは深く刃が入ったものの、まだ殻が割れる気配はない。少年の首は相変わらず不規則な瞬きをするばかりで、変化はない。再び斧が振るわれた。斜めに勢いよく刃が刺さり、ぷしゅ、と音がして液体が噴き出した。飛び散った汁が土を濡らす。
一人の少年が悲鳴を上げてへたり込んだ。
「酸だ!ココナッツに近付くな!」
「水をもっと!」
叫ぶ
飛び交う悲鳴の中、
「早く病院へ。ぼくもすぐ追いかける」
斜めに割られた下側の殻は、透明な汁を湛え、ごろりと揺れるたびに、ばちゃりと酸が溢れ、地面を流れる酸は蒸気を上げて若葉を呑み込んでいく。汁の中には、どこの部位とも知れぬ小さな骨片のようなものが幾つも浮かんでいた。また、汁が飛び散る周囲の土にも、同様の欠片が転がっていた。
上側の殻の天辺から飛び出す首は、この騒ぎにも動じず、瞬きすらしなくなっていた。
「また
喧騒の中でも通る艷やかなテノールが謳った。
*****
琺瑯の洗面器に、目を閉じた生首が仰向けに収まっており、傍らにはココナッツ殻の破片が散らばる琺瑯のトレイがある。
「単子葉類の一部、イネ科やヤシ科などでは、珪素を大量に土壌から吸い上げることで茎や幹の強度を保ちます。微細なガラス質の組織を持つこともありますが、巨大なガラス質の内殻とは聞いたことがありません」
「もちろん俺もだ。ましてや人を呑み込むなぞ……」
「人の仕業だとお考えでしょうか」
「また鳥の羽、か。率直に言って、お手上げだ」
「もしこれが南洋特有の事象なら、他の部隊で知見がないでしょうか」
「院長曰く、外部に情報を出すには時期尚早、とのことだ」
「しかし、彼はいつ死んだのだと思う」
「わかりません。脈も呼吸もないのに瞬くのは皆が見ていましたが、こちらの問い掛けとは無関係の不規則な動きでした。まるで、電気を流されて痙攣する、蛙の死体のような」
「生命の定義から始めなければならんようだ。外科医の手には負えんぞ」
湖弓が今度は実際に両手を挙げた。
「しかし、行方不明者もこれで終わりですから、不審死もこれが最後と願いたいものです」
「
「
「おかしいな。少佐もご存知のはずだが。お忙しいので数え間違えたのかもしれない」
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