紫石英
細長い机の上には、壁を埋める
「それは
「ええ。生薬としては
「石英も薬になるのですか」
「少なくとも古典ではね。白いものは
「石英は二酸化
「実のところ、この二つは私も処方したことがないの。でも将来的に、その微量金属こそが大事と判明しないとも言い切れないわ」
「占いも、将来的に科学的根拠が見つかるとお考えですか」
「……この間の話の続きといったところね」
「私も大学ではもちろん西洋科学を学んだわ。そこで気づいたの。人間が論理的と信ずる判断は、ときにランダム性を欠くの」
「当たるも八卦当たらぬも八卦と言うけれど、五分五分の試行を繰り返すと、勝率は五割に収束するわ」
「西洋医だって、かつては迷信めいた論理で逆効果な治療をして、患者を苦しめてきたでしょう。
「……つまり、下手に考えるより、丁半でずっと丁に張り続ける方が勝てるということですか」
「それが陰陽思想なのですか」
「伝統的な陰陽思想とは異なるわね。古代人は本気で宇宙を二元論で説明できると信じていたのかもしれないわ。私は〝均等な機会の積み重ねから、白黒同面積の太極図が如き均衡が生まれる〟と解釈しているの」
豊かな響きのアルトが、一人芝居のように滔々と語った。
「……非科学的です」
「科学のすべてを否定するわけでないのよ。たとえば、数字や統計も大事にするわ」
「少し前から、高射砲陣地構築部隊でロブラ患者が増え始めたの。ついては、湖弓大尉からあなたにお願いがあるそうよ。明日、彼から詳細な指示を聞いてちょうだい」
表に並ぶ、黒インクでくっきりと書かれた数字。目眩は収まり、立つ床は頑丈な岩盤かのように感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます