かずら
「想定より成長が早いな」
傾いた陽が作る木陰の中、密林を歩く
「うむ、この島はとても暖かいので、具合が良いのかもしれぬ」
「そんなものか。しかし、やはりこういう色がしっくり来るな。ぼくの寝間着はなくなったが、兵たちのように肌着で寝るとしよう」
話すうちにすぐ二人はイランイランの巨木の下に辿り着いた。夕日に照らされ黄金色に輝く花弁。
「やはり大きいな。図鑑で見るのと印象が違う」
「いや、大きさより、この強烈な香りだ。参ってしまいそうだ」
「香りの効果なぞあまり期待はしていなくて、少し気分が盛り上がればいい、くらいのつもりだったのだが、昨晩は何やら効きすぎたような気がしてならなくてな……」
「前にも見たな。大きさで言えば猛禽類だが、それにしては色鮮やかだ」
羽根を拾ってメカクレの前へ差し出した。
「なんの羽根か判ったりしないか」
メカクレはちろちろと舌先を控えめに出し入れし、「おそらく鷲の羽根」と言うと、ぷいと顔を背け、尻尾をぺちりと地面へ打ち付けた。
「なぜそっぽを向くんだ」
「鷲は好かぬ」
「なるほど、天敵というわけか……」
袖から顔を出したミドリが、鎌首をもたげ、羽根に向けて威嚇した。
「鳥はさておき、周囲の植物の様子をもう少し見ておきたい」
歩く内に、
「ウツボカズラのように見えるが」
袋は緑地に赤褐色の斑模様で、米袋程の大きさだった。
「虫だけではなく鼠を捕らえることがあるとは聞いたことがある。しかし、この大きさでは、人の子でも喰ってしまいそうだ」
おそるおそる中を覗いた
「どういうことだ。食虫植物がこんな大きい哺乳類を捕らえるとは聞いたことがない。仮に虎が落ちたとしても、袋を破って出られるはずだ」
「これでは、まるで、止めを刺してから喰ったような……」
ひゅる。しなる蔓が空を切って
メカクレが蔓を引き千切り、
上方の枝葉の影から、ドラム缶ほども大きい袋がするすると降りてきた。
「あちらは先客がいるから、ということか」
「キリがない!軍袴の右ポケットに、
メカクレが
「下のキャップを」――――
蔓が
メカクレがキャップを外して口を付け、ランタンを傾けて灯油を口に含んだ。頭上から降りてくる〝袋〟に向けて灯油を吹き、
支えを失って落下する
「助かった、ありがとう」
しかしメカクレは
「灯油を呑んでしまったか」
「うむ、少々」
「口を濯いでおくといい」
メカクレは言われるがまま口を濯いだ。吐いた胃液の上に水を吐く。胃液は固形物を含まず、透明だった。
「なんだったんだあれは。メカクレ、心当たりはあるか」
「わからぬ」
「口直しが要る」
そう言うとメカクレは
じゅるりじゅるりという水音を聞きながら、
「もう陽が落ちたな。ランタンは油がどれくらい残っているか……真っ暗になる前に帰りたいから、ほどほどにしてくれ」
血を吸われながら、
メカクレが口を離した。身体の自由が効くようになった
「まだこの島には敵兵は上陸していないはずだが……友軍か現地人か。追い払ったウツボカズラが別の者を襲って、彼らも火で対抗しているのでなければいいのだが」
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