第35話

「あ、そうだ…何か飲まれる?

ワインは如何かしら、確か年数物があったと思うのよね、」


千鶴江さんはワインリストを見ながら、

ボトルをウェイターに頼んだ。


今日はお付き合いだから、一杯程頂こうかな、


社長は何でも言いと言うように、

席についてから何も話さない。


「さあ、乾杯しましょ!」


グラスに注がれた赤ワインを一口飲むと、

酸味が口の中に広がった。


年数物って言っていたから、この銘柄はきっと高いんだろうな、

けれど庶民の私には繊細な味まではわからない。


コース料理の前菜が運ばれてきて、

それを口にしながら、横に座っている社長が気になっていた。


「奈那さん、お仕事は辛くない?

彪雅が無理な事言ってないかしら」


心配そうな顔で聞いてくる千鶴江さんに、

大丈夫です、と笑って応えた。


その時、隣の社長から視線を感じ、

そちらを見ると、すぐに目を逸らされた。


…何ですか?


なんて言えないから、不思議に思いながらも考えるのを辞めた。

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