誘拐生活2日目。

初めて君を見た時、運命だと思った。


まっすぐでさらさらな長い髪、ぱっちりとした二重の瞳。


右目のすぐ下に可愛いらしい泣きぼくろ。


あの子とそっくりだった。


あの子の生まれ変わりだと思った。


だから、勢い余って誘拐なんてしてしまった。


本当はこんな事、するつもりじゃなかったのに。




「…やってしまった事はしょうがない、か…」




ぼそ、と1人で呟く。


扉の向こうには、あの子の生き写しのような少女が眠っている。


生き写し、といっても、ただ見た目が似てるだけ。


性格が同じ、だなんて思ってないし、あの子じゃない事なんてわかりきってる。


それでも誘拐してしまうほど、自分が思った以上にあの子に依存していた事がわかって、思わず乾いた笑い声が出た。


家に帰りたい、と言うなら帰そう。


そして自首しよう。


彼女が望むなら。








話してみて、僕の予想は確信に変わりつつあった。


彼女は本当に、あの子の生まれ変わりなのかもしれない。


見た目だけじゃなく、性格も瓜二つ。


鈴が転がるような高い声。


知らない相手には猫のように警戒するところ。


食べる時、頬を緩ませて食を楽しむような反応をするところ。


全てが、あの子と一致していた。


彼女を見ると、本当にあの子の生き写しなのでは、という思いが浮かんでならない。


それでも、そう思うのは彼女に失礼だ、とも思う。


名も知らない彼女は、今日初めて喋ったばかりなのだ。


僕は彼女に、あの子の代わりを強要しているだけなのかもしれない。




「家に帰りたかったら帰っていい。


僕の事、通報するなり何なりしな」




そう述べると、彼女は僕の予想とは違った答えを出した。




「…私の家は母はおらず、父も家にいない事が多いです。


警察にバレるまでは…ここにいたい、なんて」




驚いた。


仮にも僕は犯罪者で、君を誘拐しているんだぞ?


名前しか知らない、誘拐犯相手に無防備すぎる。


僕じゃなければ絶対何かされていただろうに。


まぁでも、好都合かもしれない。


ほんの少しだけ、あの子の代わりをしてもらおう。


少しだけ、少しだけ…


彼女が家に帰りたくなるまで、僕が警察に捕まるまで。


…少しだけ…

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誘拐犯に恋をした。 天羽れむ @amo_remu1114

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