誘拐犯に恋をした。
天羽れむ
誘拐生活1日目。
なんだか寒い。
それに、いつもより布団が柔らかい気がする。
そんな違和感に気付き、目を開けてみる。
そこは全く知らない場所だった。
「あ、起きた?」
がちゃ、と部屋が開き、知らない男が出てきた。
誰、この人は?
ここはどこなの?
「怖がらせてごめんね。
何もしないから、安心して」
私が不安そうにしているのがわかったのか、彼はそう言う。
「ここはどこ、あなたは誰?
私を何のためにここへ?」
「僕は雨宮翔太。
ここは僕の家」
男基雨宮さんは、近くにあった椅子に腰掛けて話す。
「君の名前は?」
「知らないの?」
思わずそう聞いてしまった。
私のことを誘拐した人なのだから、知っていると思っていた。
「あぁ…うん。
色々あって、衝動的に君をここに連れてきた、というか…」
バツが悪そうに頰をかく雨宮さん。
名前を言おうか、と迷ったが、あくまで彼は誘拐犯だ。
下手に情報を流さないほうがいい、と思い、口を開くのをやめた。
「…やっぱり、誘拐犯に個人情報を言うのは嫌だよね。
ごめんね」
しゅん、とする雨宮さんを見て、少し悪いことをしたかな、とも思ったが、気にすることはないだろう。
彼は誘拐犯なのだから。
「あ、お腹減ってない?
軽くだけど、朝ごはんを用意してるんだ。
もちろん、毒とか危ないものは入れてないよ」
正直に言うと、今私はお腹が減っている。
何も入っていないなら、いただこうか。
そう思い、こく、と首を縦に振った。
すると雨宮さんは、なんだか嬉しそうに部屋を出ていった。
不用心な人だ。
部屋のドアは開けっぱなし。
私には手錠のひとつも付けずに1人にして。
逃げ出したらどうするんだろう。
でもきっと、あの様子だと私が逃げても気にしなさそう。
「お待たせ。
フレンチトーストを作ってみたんだけど…」
雨宮さんが持ってきたお盆の上には、ふわふわでちょうどいい焼き色が付いたフレンチトーストとはちみつだった。
美味しそうな匂いが当たりを漂う。
手を合わせて、小さな声でいただきます、という。
ナイフで一口サイズにカットし、口に放り込む。
ほんのり甘く、卵の風味が口に広がる。
お店を開けるレベルなのでは、と思えるくらいには美味しかった。
「…美味しい」
「本当?
よかった」
ほっとしたような顔で、私を見てくる。
「これからは僕がご飯を作るよ。
…外には出してあげられないけど、好きなことをさせてあげる。
ゲームだってテレビだっていい。
この家の物は好きに使って」
見た目は人当たり良さそうな人。
どうして私を誘拐なんてしたのだろう。
そんな事を聞く勇気が、今の私にはなかった。
「あ、でも…
家に帰りたかったら帰っていい。
僕の事、通報するなり何なりしな」
「え…?」
当たり前、と言えば当たり前なのだろうが、私は彼の思考が理解できなかった。
彼は私を誘拐した。
彼は立派は犯罪者なのだ。
犯罪者は、警察に捕まりたくないものなのではないのか?
そう思っていたから、私は余計に驚いた。
家に帰りたい、と言えば帰れる。
でも、帰ってもいい事はない。
母は私が幼い頃に事故で亡くなった。
父はあまり家に帰らないし、私も好きではない。
きっと父は、私が誘拐されているなんて事知らない。
いつも1人で寂しい思いをしていた分。
今ここで、雨宮さんと一緒に暮らすのもアリなのではないか、と思ったみたり。
「…私の家は母はおらず、父も家にいない事が多いです。
だから…警察にバレるまでは…ここにいたい、なんて」
「…そっか」
そうして、私と彼の非日常的な生活が始まった。
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