第29話 EP5-6 麗美は良き妹弟子である

 この世界せかいとなりには、『狭間はざま』とばれる世界せかいがある。

 狭間はざまには、『狭魔きょうま』とばれるモンスターがる。

 狭魔きょうまたおす、『魔狩まかり』とばれる人間にんげんがいる。


   ◇


 オレは、遠見とおみ 勇斗ゆうと。十四さい中学生ちゅうがくせいで、えないメガネ男子だんしである。こし廉価品れんかひん長剣ロングソードをさげる、一応いちおうしの魔狩まかりである。


琴音ことね御姉様おねえさまこえして! イチ、ニッ、イチ、ニッ!」

 体操服たいそうふく琴音ことね麗美れみが、放課後ほうかごにグラウンドのすみはしる。

 麗美れみ元気げんきいっぱいにまえき、琴音ことねいまにもたおれそうにフラフラとう。

「ひぃっ、いちっ……にぃっ……。ふぅっ、いちっ……にぃっ……」


 美少女びしょうじょ転入生てんにゅうせい麗美れみは、あおとおるサラサラストレートヘアがかぜなびいて、あせがキラキラとかがやく。琴音ことねは、フラつく一歩いっぽごとにおおきなむねれる。

 放課後ほうかごだというのに、ギャラリーの生徒せいとおおい。男子だんしおおめか。

 オレは、ほら、関係者かんけいしゃだから。ともだちだから。


一週間いっしゅうかん再戦さいせんなのに、いまさらはしみして意味いみないとおもうけど」

 桃花ももかも、怪訝けげん二人ふたりながめる。

「そもそも、狭魔きょうまわらってた、ってなんなのよ?」

桃花ももかも、コイツとは正々せいせい堂々どうどう全力ぜんりょくたたかってみたい、っておもうことあるだろ?」

 オレは、すべてを理解りかいしたかおこたえた。


勇斗ゆうとは、そういうことあるんだ?」

 桃花ももか怪訝けげんそうにいた。

「あるわけないだろ? オレがけるじゃん」

 オレは、当然とうぜん否定ひていした。

「だとおもった」

 桃花ももか納得なっとくがおうなずいた。


「ほら、あれだよ。長年ながねん悲願ひがんかなうとか、生涯しょうがいのライバルに出会であうとか。それをよろこんでわらかんじ」

 オレはドヤがお解説かいせつした。

 琴音ことねアンド麗美れみたいキューブをていて、そんながした。がしただけで、のせいかもれないし、かんがえすぎかもれない。


勇斗ゆうとかく実際じっさいたたかった琴音ことねうなら、しんじるしかないか」

 桃花ももか納得なっとくした。

「オレも、そうおもう」

 オレも納得なっとくした。琴音ことね本人ほんにんのぞむなら、外野がいや反対はんたいする意味いみはない。


琴音ことね御姉様おねえさま! ほらっ、もっとこえして! イチ、ニッ、イチ、ニッ!」

「ひっ、ひぃぃぃ~。ひぃっ、麗美れみちゃっ、ふぅっ、ちょっ、ちょっと、っ……」

 琴音ことねがいよいよ、たおれそうにフラフラとはしる。

 ……やっぱり、不安ふあんだ。


   ◇


 一週間いっしゅうかんが、あっとぎた。


 なつさかりの日曜にちよう昼間ひるまに、やまなかてた神社じんじゃにいる。

 セミのうるさ木々きぎかこまれて、くさボウボウのちいさな広場ひろばがある。たぶん鳥居とりいだった残骸ざんがいと、たぶんなにかだったいわ土台どだいいくつかのこる。


 琴音ことねは、麗美れみのコーディネイトで、灰色はいいろながかみみにして、魔女まじょみたいなくろいローブで全身ぜんしんおおう。意気いき消沈しょうちんそこみたいなよどんだうつむく。

「このさきは、琴音ことね御姉様おねえさまたたかいです。琴音ことね御姉様おねえさまのおきになさってください」

 麗美れみ激励げきれいおくされて、琴音ことねがトボトボと広場ひろば中央ちゅうおうかう。


「ちょっと、琴音ことね大丈夫だいじょうぶなの?」

 桃花ももか不安ふあんげにいた。

 オレも、不安ふあんだ。たしか、琴音ことね気分きぶん高揚こうようしたらつよくなる、ってはなしじゃなかったっけ?

「この一週間いっしゅうかん琴音ことね御姉様おねえさまのおうちに、おまりさせていただきました」

 麗美れみほこらしげにこたえる。

毎日まいにちのランニング。きびしく栄養えいよう管理かんり。おフロではあらかたまで逐一ちくいち指示しじし、ベッドもご一緒いっしょいたしました」

拷問ごうもんね? それでドンぞこ気分きぶんなのね。ダメじゃない?」

 桃花ももかがドンきした。


 しかし、麗美れみ自信じしんみをかべる。

「そしていまこそ! 琴音ことね御姉様おねえさまは! すべての抑圧よくあつから解放かいほうされますの!」

 くさボウボウの広場ひろば中心ちゅうしんで、琴音ことね麗美れみいた。あやまるように、いきおいよくあたまをさげた。


 いきおいよくあたまをあげた琴音ことねが、全開ぜんかい微笑びしょうして、魔女まじょくろローブをてる。したにはもちろん、レースやフリルをふんだんに使つかった白銀はくぎんの、魔法まほう少女しょうじょみたいな衣装いしょうまとう。

 灰色はいいろながかみの、かたみをほどく。灰色が、白銀はくぎん髪色かみいろへとわる。

 レースの手袋てぶくろに、あかいハートとしろつばさかざられた片手かたてサイズのつえかかげる。


 前触まえぶれもなく、空気くうきわった。


   ◇


 琴音ことねから、熱風ねっぷうれた。

 ちがう、こっちの世界せかいにはれない。狭間はざまに吹き荒れた。熱風ねっぷう錯覚さっかくするほどの迫力はくりょくだった。


 しろ平原へいげんみたいな狭間はざまに、全開ぜんかい微笑びしょう琴音ことねが、魔力体まりょくたい狭魔きょうま『キューブ』と対峙たいじする。

 しろそらから、ゆきみたいなしろつぶがチラチラとる。 


 キューブも、歓喜かんきするみたいにれた。半透明はんとうめい立方体りっぽうたいから、ゴツゴツしたこおりかたまりわった。


 ほのお魔法まほう得意とくいとする琴音ことねまえに、一方的いっぽうてきてるほのおにならなかった。相反あいはんするこおりになった。理由りゆう意味いみも、きっとキューブそれ自体じたいにしかからない。


 キューブのまえには、しろ魔力まりょくあつまりはじめる。

ふくらみ、け、赤白せきはく珠玉しゅぎょく

 琴音ことねが、んだたかこえ詠唱えいしょうする。白銀はくぎんながかみうっすらとかがやく。白銀はくぎん魔法まほう少女しょうじょ衣装いしょうまで、ひかり反射はんしゃしてキラキラとかがやく。


一切いっさいぜよ! メガバースト!」

 琴音ことねつえから、巨大きょだい火球かきゅうはなたれた。

 こおりのキューブから、巨大きょだい氷球ひょうきゅうころがった。

 火球かきゅう氷球ひょうきゅうたがいの中央ちゅうおうでぶつかる。相殺そうさいし、大量たいりょう水蒸気すいじょうきす。相殺そうさいからあふれて、キューブがわえあがり、琴音ことねがわ氷結ひょうけつする。


 こおりのキューブはほのおつつまれた。琴音ことねは、こおりめられた。


   ◇


 こおりのキューブはえながら、さらなるしろ魔力まりょくあつめる。さっきよりもおおきく、さっきよりもつめたくえる。

 える平原へいげんこおりつく。ほのおすらこおりはしらとなって、氷樹ひょうじゅはやしみたいにならつ。

 琴音ことねがそうであるように、コイツも気分きぶんつよくなるのか? 意思いし感情かんじょうがあるかもからない相手あいてに、そんなバカげた妄想もうそうあたまぎる。


「……、……、……、……、……、……」

 琴音ことねめられたこおりから、かすかにおとこえる。

 あか魔力まりょくあふれる。け、ヒビがはいる。えあがる。

 氷結ひょうけつした平原へいげんえあがる。こおりはしらすらえて、ほのおはやしみたいに狭間はざまおおう。


 こおりのキューブから、吹雪ふぶきした。きものめいてウネって、かたちして、風雪ふうせつりゅうとなった。

希望きぼう無苦むく万物ばんぶつてよ、ほうえん!」

 琴音ことねから、あか魔力まりょくが、巨大きょだいおおとり姿すがたのぼる。ばたくように、抱擁ほうようするように、巨大きょだいほのおつばさ風雪ふうせつりゅうを、空間くうかんつつむ。


 しろ狭間はざまほのおまった。ほのおつぶが、チラチラとっていた。


   ◇


 てた神社じんじゃで、そらからちてくる小石こいし琴音ことね両手りょうてけとめる。聖女せいじょのようにやさしく、おおきなむねきしめる。


 オレは、ってるつもりでらなかった。きっと、麗美れみだけがっていた。


 琴音ことねは、魔狩まかりである。攻撃こうげき魔法まほう使つかえる『ウィッチ』である。なんて紹介しょうかいでは生温なまぬるい。


 琴音ことねは、最強さいきょう魔法まほう少女しょうじょである。



マカリなのでハザマでキョウマとタタカわされます

第29話 EP5-6 琴音ことね最強さいきょう魔法まほう少女しょうじょである/END

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る