第28話 EP5-5 姉弟子と妹弟子

 この世界せかいとなりには、『狭間はざま』とばれる世界せかいがある。

 狭間はざまには、『狭魔きょうま』とばれるモンスターがる。

 狭魔きょうまたおす、『魔狩まかり』とばれる人間にんげんがいる。


   ◇


 オレは、遠見とおみ 勇斗ゆうと。十四さい中学生ちゅうがくせいで、えないメガネ男子だんしである。こし廉価品れんかひん長剣ロングソードをさげる、一応いちおうしの魔狩まかりである。


 しろ狭間はざまからてた神社じんじゃへと、琴音ことね麗美れみもどった。


 オレは、うめ麗美れみろうとして、躊躇ためらった。

 麗美れみが、くろローブのしたなにてないかんじの手足てあしかただったからだ。


 ウィッチのガチぜいには魔力まりょくがる衣服いふくきら派閥はばつがある、といたことがある。いかにもガチぜいらしき麗美れみなら、なにてない可能性かのうせいがあってもおかしくない。


 いや、ローブをてるからなにも着てないわけじゃない。でも、負傷ふしょう有無うむたしかめようとしたら、ローブのしたえてしまうじゃないか。


勇斗ゆうと琴音ことねほうって。こっちはアタシがるから」

 麗美れみった桃花ももかに、野良犬のらいぬでもはらうようにられた。確定かくていっぽい。

「よし! まかせた!」

 オレはあわてて、そのはなれた。


   ◇


 魔狩まかりギルドの会議室かいぎしつで、昼食ちゅうしょく仕出しだ弁当べんとうをご馳走ちそうになる。麗美れみ治療ちりょうわって、私服しふく着替きがえて、四人よにんそろう。


 ウィッチガチぜい麗美れみも、私服しふくはカワイイけいで、あおとおるサラサラストレートヘアの美少女びしょうじょだ。うで包帯ほうたいだけが痛々いたいたしい。


麗美れみちゃん……ごめんなさい……」

 琴音ことね責任せきにんかんじて、しょんぼり項垂うなだれる。

すべては、わたくしの未熟みじゅく原因げんいんです。琴音ことね御姉様おねえさまわるくございません。それに、魔狩まかりをしていれば、怪我けがなんて日常茶飯事にちじょうさはんじでしてよ」

 麗美れみ琴音ことね気遣きづかって、気丈きじょうう。実際じっさいうでかる火傷やけどんでいる。


 おな会議室かいぎしつで、ギルド職員しょくいん今後こんご対応たいおう協議きょうぎする。

 必勝ひっしょうしたさくやぶれて、再戦さいせんするか、べつさくるか、根本こんぽんからかんがえなおすか、判断はんだんむずかしいところだろう。


   ◇


遠見とおみくん戦闘せんとうわったタイミングについて、きみ意見いけんきたい。かまわないか?」

 会議かいぎちゅう片桐かたぎりこえをかけられた。


 片桐かたぎりは、魔狩まかりギルドの、この区域くいき担当たんとう責任者せきにんしゃだ。くろいスーツ姿すがたの、おやよりも年上としうえくらいのオッサンだ。たかがたで、サングラスとととのったひげと、ひだりまぶたたて傷痕きずあと特徴的とくちょうてきな、哀愁あいしゅうただよしぶさだ。


「あ、はい。いいっすよ」

 オレは、昼食ちゅうしょく中断ちゅうだんしてちあがった。


 キューブとの戦闘せんとうの、たまますべては報告ほうこくみだ。実際じっさい戦闘せんとうしたひとよりも、よこから傍観ぼうかんしたほうえるものもおおい。


「えっと、あれは、たおせてないとおもうっす」

 狭魔きょうまたおしたときの小石こいしつかってない。放題ほうだいやまなかちて行方ゆくえ不明ふめい、ってこともないとおもう。

時間じかんれか、あるいは、ちょっと説明せつめいむずかしいっすけど、なんだかいつものかんじじゃなかったっていうか」

 上手うま説明せつめいできない。なんというか、たことない状況じょうきょうだった。


「あれは」

 麗美れみが、唐突とうとつこえをあげた。つづきを、口籠くちごもった。

 けっしたかおちあがった。

「あれは、『刻印こくいん』の条件じょうけんはずれてしまいましたの」

 確信かくしん口調くちょうこたえた。麗美れみには、理由りゆうかっているようだった。


   ◇


 麗美れみ逡巡しゅんじゅんする。れるこころのままに、可憐かれんくちひらく。

「わたくししからない琴音ことね御姉様おねえさま秘密ひみつなので、本当ほんとうおしえたくございませんけれど。琴音ことね御姉様おねえさまは、精神せいしん状態じょうたい力量りきりょう上下じょうげなさいますの」

「そうなんだ? 琴音ことねとは何度なんど共闘きょうとうしたけど、らなかったわ」

 桃花ももかがデリカシー皆無かいむくちはさんだ。麗美れみ嫉妬しっと眼光がんこうにらまれた。


琴音ことね御姉様おねえさま聖女せいじょのようにおやさしいかたなので、無意識むいしき相手あいて力量りきりょうわせていらっしゃるのだとおもいます」

「……えっ?!」

 ベタめされて、琴音ことねれて赤面せきめんした。あかかお両手りょうておおった。


「ですから、キューブとの戦闘せんとうちゅう気分きぶん高揚こうようして、本来ほんらい力量りきりょうちかづいて。わたくしと琴音ことね御姉様おねえさま力量りきりょうが、『刻印こくいん』の許容きょようえたのでしょう」

 麗美れみが、すこかなしげにくくった。


 あこがける先輩せんぱいに、まったいつけていなかった。どころか、先輩せんぱい後輩こうはい気遣きづかって手加減てかげんしてくれていた。

 ってかんじか。


   ◇


「もう、あの神社じんじゃ禁止きんしにして、放置ほうちすれば?」

 桃花ももか面倒めんどうそうに、無責任むせきにん発言はつげんをした。

 無責任むせきにんだが、的外まとはずれじゃない。


 そもそも、『魔法まほう使つかう魔法しかかない狭魔きょうま』なんて、もっと被害ひがいまくる危険きけんてきのはずだ。

 魔力体まりょくたい狭魔きょうまがそうならないのには、ふたつの理由りゆうがある。


 ひとつは、なぜか魔力体まりょくたい狭魔きょうまは、魔法まほう使つかえるタイプの魔狩まかりしかまない。

 狭魔きょうまつよ人間にんげんえらんで狭間はざまむ、につうじるところだ。


 もうひとつは、不動ふどう魔力体まりょくたい狭魔きょうまは、理由りゆうからないけれど、そのから移動いどうしない。理由は、もう全然ぜんぜん、分からない。


「うむ。つぎ作戦さくせん決行けっこうぎつけるまで、そうするしかあるまい」

 片桐かたぎりが、しと苦渋くじゅうかお同意どういした。

「まっ、ってください」

 琴音ことねが、あわててこえをあげた。


 ギルド職員しょくいんたちがザワつく。琴音ことね注目ちゅうもくする。

 琴音ことね集中しゅうちゅうする視線しせんえかね、オドオドする。テンパって、パニック寸前すんぜんになる。

琴音ことね御姉様おねえさま

 麗美れみ琴音ことねにぎった。

だれもが琴音ことね御姉様おねえさま否定ひていしても、嘲笑ちょうしょうしても、わたくしだけは賛同さんどういたします。琴音ことね御姉様おねえさましんじて、どこまでもご一緒いっしょいたします」

麗美れみちゃん……」

 琴音ことねが、銀縁ぎんぶちまるメガネのおくひとみをウルウルとうるませた。


 オレや桃花ももかまくはなさそうだ。むしろ、姉妹しまい弟子でしって関係かんけいうらやましいくらいだ。


   ◇


 琴音ことねちあがった。麗美れみにぎったまま、おおきなむねり、堂々どうどうくちひらいた。

「わたしに、もう一度いちど、キューブとたたか機会きかいをください!」

 いつもと雰囲気ふんいきちがう。思案じあん内気うちき人見知ひとみしりじゃない。 


 真奉しんほう 琴音ことねは、あね弟子でしである。

 いもうと弟子でしまえ無様ぶざまさらすわけがない。妹弟子の前では、最強さいきょうあね弟子でしである。



マカリなのでハザマでキョウマとタタカわされます

第28話 EP5-5 あね弟子でしいもうと弟子でし/END

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