マカリなのでハザマでキョウマとタタカわされます

第27話 EP5-4 ダブルウィッチ

　この世界（せかい）の隣（となり）には、『狭間（はざま）』と呼（よ）ばれる世界（せかい）がある。

　狭間（はざま）には、『狭魔（きょうま）』と呼（よ）ばれるモンスターが出（で）る。

　狭魔（きょうま）を倒（たお）す、『魔狩（まかり）』と呼（よ）ばれる人間（にんげん）がいる。

　　　◇

　前触（まえぶ）れもなく、空気（くうき）が変（か）わった。

　廃墟（はいきょ）と化（か）した不気味（ぶきみ）な神社（じんじゃ）から、琴音（ことね）と麗美（れみ）が消（き）えた。

　　　◇

　オレは、遠見（とおみ）　勇斗（ゆうと）。十四歳（さい）の中学生（ちゅうがくせい）で、冴（さ）えないメガネ男子（だんし）である。腰（こし）に廉価品（れんかひん）の長剣（ロングソード）をさげる、一応（いちおう）、駆（か）け出（だ）しの魔狩（まかり）である。

　この世界（せかい）から狭間（はざま）が見（み）える特殊（とくしゅ）能力（のうりょく）を持（も）つ。だから、見える。

　白（しろ）い平原（へいげん）に、琴音（ことね）と麗美（れみ）が肩（かた）を並（なら）べる。

　白（しろ）い空（そら）から、雪（ゆき）みたいな白（しろ）い粒（つぶ）がチラチラと降（ふ）る。

　夏（なつ）の盛（さか）りだというのに、真冬（まふゆ）のような景色（けしき）の狭間（はざま）だ。

　魔力体（まりょくたい）の狭魔（きょうま）は、コードネーム『キューブ』のままに立方体（りっぽうたい）である。人間（にんげん）より一回（ひとまわ）り大（おお）きい程度（ていど）で、白（しろ）い地面（じめん）から浮（う）いて、半透明（はんとうめい）で、油膜（ゆまく）めいて色（いろ）が動（うご）く。

　見（み）た感（かん）じ、無機物（むきぶつ）にしか見（み）えない。いや、まぁ、狭魔（きょうま）が有機物（ゆうきぶつ）かと問（と）われると困（こま）ってしまうけれど。命（いのち）とか意思（いし）とか感情（かんじょう）とかがあるようには見（み）えない、とするべきか。

　　　◇

　琴音（ことね）が、赤（あか）いハートと白（しろ）い翼（つばさ）の杖（つえ）を、レースの手袋（てぶくろ）の手（て）に、大（おお）きな胸（むね）の高（たか）さに構（かま）える。

「赤（あか）き舌（した）、舐（な）め、削（そ）ぎ、這（は）い、灰（はい）」

　麗美（れみ）が、コブだらけの古木（こぼく）の杖（つえ）を、黒（くろ）ローブのフードの高（たか）さに構（かま）える。

「鋭利（えいり）なる冷気（れいき）よ！　我（わ）が敵（てき）を縛（しば）り！」

　魔法（まほう）の詠唱（えいしょう）が始（はじ）まった。二人（ふたり）ともに、高（たか）く澄（す）んで可憐（かれん）な声（こえ）だ。

　キューブの姿（すがた）が揺（ゆ）らいで、炎（ほのお）となった。その手前（てまえ）に、赤（あか）い魔力（まりょく）が集（つど）い始（はじ）めた。

　キューブは、複数（ふくすう）の属性（ぞくせい）を持（も）つ。複数（ふくすう）の属性（ぞくせい）を任意（にんい）に、秒（びょう）単位（たんい）で切（き）り替（か）えられる。

　だから、琴音（ことね）と麗美（れみ）が選（えら）ばれた。

「一筋（ひとすじ）の黒（くろ）き道（みち）を！　フレイムタン！」

「貫（つらぬ）きなさい！　アイス！　ジャベリン！」

　魔法（まほう）の詠唱（えいしょう）が、ほぼ同時（どうじ）に完了（かんりょう）した。ほぼ同時に、炎（ほのお）の魔法と氷（こおり）の魔法が発動（はつどう）した。

　赤（あか）い炎（ほのお）がキューブに向（む）けて、白（しろ）い平原（へいげん）に炎の道（みち）を描（えが）く。

　氷（こおり）の槍（やり）が三本（さんぼん）、キューブに向（む）けて飛（と）ぶ。

　キューブが放（はな）った火球（かきゅう）とぶつかって、氷（こおり）の槍（やり）が二本（にほん）消（き）えた。火球（かきゅう）は飛散（ひさん）して、火（ひ）の粉（こ）となった。

　琴音（ことね）の炎（ほのお）がキューブを捉（とら）えた。しかし、一瞬（いっしゅん）で消（き）えた。炎となったキューブに炎は効（き）かない。

　僅（わず）かに遅（おく）れて、氷（こおり）の槍（やり）がキューブに突（つ）き刺（さ）さる。キューブはすでに、氷になっている。氷に氷は効（き）かない。

　　　◇

　惜（お）しい。ちょっとだけタイミングがズレた。

　琴音（ことね）は炎（ほのお）の攻撃（こうげき）魔法（まほう）を得意（とくい）とする。

　麗美（れみ）は氷（こおり）の攻撃（こうげき）魔法（まほう）を得意（とくい）とする。

　相反（あいはん）する属性（ぞくせい）の炎（ほのお）と氷（こおり）を、同時（どうじ）にキューブに当（あ）てる。これなら、属性（ぞくせい）を切（き）り替（か）えるキューブも成（な）す術（すべ）はない。という作戦（さくせん）である。

　二人（ふたり）ならきっと、完璧（かんぺき）にタイミングを合（あ）わせられる。一緒（いっしょ）に訓練（くんれん）を積（つ）んで、互（たが）いをよく知（し）る。

「琴音（ことね）御姉様（おねえさま）はバーストを！　わたくしが合（あ）わせます！」

　麗美（れみ）が楽（たの）しげに声（こえ）をかけた。

　応（こた）えて、琴音（ことね）も楽（たの）しげに微笑（びしょう）する。

「生（う）まれ、燃（も）え、橙（だいだい）、弾（はじ）け」

　氷（こおり）のキューブが、氷の飛礫（つぶて）を無数（むすう）に飛（と）ばした。

「アイスウォール！」

　麗美（れみ）が氷（こおり）の壁（かべ）をそそり立（た）てた。飛礫（つぶて）を遮（さえぎ）って、バチバチと無数（むすう）の衝突音（しょうとつおん）が鳴（な）って、崩（くず）れ落（お）ちた。

　僅（わず）かも淀（よど）まず、次（つぎ）の詠唱（えいしょう）に継（つ）ぐ。

「凍（こご）える塵（ちり）よ！　身（み）を寄（よ）せ合（あ）い！」

「凍（こお）れ！　集（つど）え！　アイスロック！」

「呑（の）み込（こ）め！　バースト！」

　魔法（まほう）の詠唱（えいしょう）が、ほぼ同時（どうじ）に完了（かんりょう）した。ほぼ同時に、炎（ほのお）の魔法と氷（こおり）の魔法が発動（はつどう）した。

　キューブが炎（ほのお）となった。

　炎（ほのお）のキューブに、琴音（ことね）の火球（かきゅう）と麗美（れみ）の氷塊（ひょうかい）が、同時（どうじ）にぶつかった。

　炎（ほのお）となったキューブに炎は効（き）かない。氷塊（ひょうかい）が、炎のキューブを半分（はんぶん）削（けず）った。

　キューブは倒（たお）れるように傾（かたむ）き、踏（ふ）みとどまるように震（ふる）える。なぜだか、顔（かお）なんてないのに、感情（かんじょう）があるかも分（わ）からないのに、楽（たの）しげに笑（わら）っているようにも見（み）える。

　惜（お）しい！　キューブを倒（たお）すには、少（すこ）しダメージが足（た）りない。でも、次（つぎ）の攻撃（こうげき）で終（お）わりだ！

「膨（ふく）らみ、灼（や）け、赤白（せきはく）、珠玉（しゅぎょく）」

　琴音（ことね）が、いよいよ楽（たの）しげに微笑（ほほえ）む。

　澄（す）んだ高（たか）い声（こえ）で、白銀（はくぎん）の長（なが）い髪（かみ）が薄（うっす）らと輝（かがや）く。白銀（はくぎん）の魔法（まほう）少女（しょうじょ）衣装（いしょう）まで、光（ひかり）を反射（はんしゃ）してキラキラと輝（かがや）く。

「凍（い）てつく刻（とき）よ！　静（しず）かなる流（なが）れよ！」

　麗美（れみ）も満面（まんめん）の笑顔（えがお）で、詠唱（えいしょう）を重（かさ）ねる。

　琴音（ことね）から溢（あふ）れる赤（あか）い魔力（まりょく）と、麗美（れみ）から溢（あふ）れる白（しろ）い魔力が、触（ふ）れ合（あ）い、混（ま）じり、渦（うず）を巻（ま）く。

「えっ！？　熱（あつ）っ！？」

　麗美（れみ）が悲鳴（ひめい）を呻（うめ）いた。黒（くろ）ローブの上（うえ）から腕（うで）を押（お）さえて、草（くさ）ボウボウの広場（ひろば）を転（ころ）がった。

　廃墟（はいきょ）と化（か）した不気味（ぶきみ）な神社（じんじゃ）に、琴音（ことね）も麗美（れみ）も戻（もど）っていた。

マカリなのでハザマでキョウマとタタカわされます

第27話 EP5-4 ダブルウィッチ／ＥＮＤ