マカリなのでハザマでキョウマとタタカわされます

第24話 EP5-1 氷の転校生

　この世界（せかい）の隣（となり）には、『狭間（はざま）』と呼（よ）ばれる世界（せかい）がある。

　狭間（はざま）には、『狭魔（きょうま）』と呼（よ）ばれるモンスターが出（で）る。

　狭魔（きょうま）を倒（たお）す、『魔狩（まかり）』と呼（よ）ばれる人間（にんげん）がいる。

　　　◇

　オレは、遠見（とおみ）　勇斗（ゆうと）。十四歳（さい）の中学生（ちゅうがくせい）で、冴（さ）えないメガネ男子（だんし）である。腰（こし）に廉価品（れんかひん）の長剣（ロングソード）をさげる、一応（いちおう）、駆（か）け出（だ）しの魔狩（まかり）である。

　騒々（そうぞう）しい朝（あさ）の教室（きょうしつ）で、最後尾（さいこうび）のグラウンド側（がわ）の窓際（まどぎわ）の席（せき）からグラウンドを眺（なが）める。

「結局（けっきょく）、逃（に）げられちゃったわね」

　隣（となり）の席（せき）の桃花（ももか）が声（こえ）をかけてきた。

　絢染（あやそめ）　桃花（ももか）は魔狩（まかり）である。オレの幼馴染（おさななじ）みで、十四歳（さい）の中学生（ちゅうがくせい）で、桃色（ももいろ）の長（なが）い髪（かみ）で、華奢（きゃしゃ）で、胸（むね）が小（ちい）さい。

　腰（こし）に、自身（じしん）と同（どう）サイズの両刃（りょうば）の大剣（たいけん）をさげる。

　当校（うち）の制服（せいふく）は、男子（だんし）は黒（くろ）の学生服（がくせいふく）、女子（じょし）は赤（あか）いスカーフのセーラー服（ふく）である。

「らしいな」

　秋葉（あきは）先生（せんせい）は行方（ゆくえ）を眩（くら）ませた。魔狩（まかり）ギルド職員（しょくいん）の包囲（ほうい）には、引（ひ）っかかりもしなかったそうだ。

「アタシたちも、追（お）い駆（か）けた方（ほう）が良（よ）かったかな？」

「脚（あし）の長（なが）い体育（たいいく）教師（きょうし）の『ウォリア』を？　追（お）いつけるわけないだろ？」

　オレは桃花（ももか）に向（む）いて、達観（たっかん）顔（がお）で肩（かた）を竦（すく）めた。

　　　◇

　朝（あさ）のホームルームの本鈴（チャイム）が鳴（な）る。担任（たんにん）の谷口（たにぐち）が教壇（きょうだん）に立（た）つ。いつもながら、朝（あさ）から疲（つか）れた顔（かお）をしている中年（ちゅうねん）男（おとこ）である。

「はい。全員（ぜんいん）、席（せき）に着（つ）いて。突然（とつぜん）ですが、転入生（てんにゅうせい）を紹介（しょうかい）します」

　騒々（そうぞう）しい教室（きょうしつ）が、さらにザワついた。

　谷口（たにぐち）の横（よこ）に、小柄（こがら）な女子（じょし）が佇（たたず）む。見（み）たことない他校（たこう）のブレザーを着（き）ている。

　冷（つめ）たい雰囲気（ふんいき）の、美少女（びしょうじょ）である。青（あお）く透（す）き通（とお）るサラサラストレートヘアで、目（め）つき鋭（するど）く無表情（むひょうじょう）で、着飾（きかざ）ったドールみたいなカワイさもある。

「小織（こおり）　麗美（れみ）です。よろしくお願（ねが）いいたします」

　口調（くちょう）は冷淡（れいたん）、声（こえ）は平坦（へいたん）、挨拶（あいさつ）にも愛想（あいそ）がない。

　主（おも）に男子（だんし）が騒（さわ）ぐが、それにも眉（まゆ）一（ひと）つ動（うご）かさない。

「小織（こおり）さんは、狭魔（きょうま）討伐（とうばつ）の都合（つごう）で、短期間（たんきかん）だけ一緒（いっしょ）に勉強（べんきょう）します。皆（みな）、仲良（なかよ）くしてあげてください」

　谷口（たにぐち）が疲（つか）れた口調（くちょう）で補足（ほそく）した。

「え～っと、席（せき）は」

　谷口（たにぐち）の案内（あんない）を待（ま）たず、麗美（れみ）がカツカツと強（つよ）い歩調（ほちょう）で、机（つくえ）の並（なら）びの中（なか）へと踏（ふ）み入（い）る。

　琴音（ことね）の横（よこ）で立（た）ちどまった。

「ひっ、ひぃぃぃ～」

　琴音（ことね）が怯（おび）えた瞳（ひとみ）でナチュラルに、小（ちい）さく悲鳴（ひめい）をあげた。

「ご無沙汰（ぶさた）しております、琴音（ことね）御姉様（おねえさま）」

　麗美（れみ）が無愛想（ぶあいそ）に、丁寧（ていねい）に頭（あたま）をさげた。

　　　◇

　真奉（しんほう）　琴音（ことね）は魔狩（まかり）である。銀縁（ぎんぶち）の丸（まる）メガネをかけたメガネ女子（じょし）で、灰色（はいいろ）の長（なが）い髪（かみ）を三（み）つ編（あ）みにして、小柄（こがら）で胸（むね）が大（おお）きい。

　腰（こし）に、赤（あか）いハートと白（しろ）い翼（つばさ）で飾（かざ）られた片手（かたて）サイズの杖（つえ）をさげる。

「琴音（ことね）って、妹（いもうと）がいたんだ？」

　桃花（ももか）が怪訝（けげん）そうに聞（き）いた。

「一人（ひとり）っ子（こ）です～」

　桃花（ももか）の背中（せなか）に隠（かく）れる琴音（ことね）が弱々（よわよわ）しく答（こた）えた。

　人見知（ひとみし）りの琴音（ことね）が、いつにも増（ま）してオドオドしている。

「だと思（おも）った」

　桃花（ももか）が納得（なっとく）顔（がお）で頷（うなず）いた。

　昼休（ひるやす）みに、オレ、桃花（ももか）、琴音（ことね）、麗美（れみ）の四人（よにん）でオレの席（せき）を囲（かこ）む。

　突然（とつぜん）の美少女（びしょうじょ）転入生（てんにゅうせい）とお近（ちか）づきになりたい生徒（せいと）たちは、桃花（ももか）を恐（おそ）れて遠巻（とおま）きにしている。桃花（ももか）は強（つよ）い。

「琴音（ことね）御姉様（おねえさま）とは、魔法（まほう）訓練所（くんれんじょ）でご一緒（いっしょ）させていただきました。いわゆる、姉弟子（あねでし）妹弟子（いもうとでし）の関係（かんけい）です」

　麗美（れみ）が淡白（たんぱく）に答（こた）えた。

「同期（どうき）でいいじゃないですか～。歳（とし）も一（いっ）か月（げつ）しか違（ちが）わないじゃないですか～」

　桃花（ももか）の背中（せなか）に隠（かく）れる琴音（ことね）が弱々（よわよわ）しく抗議（こうぎ）した。

　魔法（まほう）訓練所（くんれんじょ）とは、魔法（まほう）を教（おし）えてくれる公的（こうてき）機関（きかん）である。

　魔法（まほう）は個人（こじん）での練習（れんしゅう）が難（むずか）しい。琴音（ことね）みたいに力量（りきりょう）のある『ウィッチ』だと、攻撃（こうげき）魔法（まほう）を全力行使（ブッパ）しただけで、かなりの被害（ひがい）が出（で）てしまう。

　だから、安全（あんぜん）のためにも公的（こうてき）に育成（いくせい）してくれる。魔法（まほう）の使（つか）い方（かた）を教（おし）え、実際（じっさい）に行使（こうし）できる訓練場（くんれんじょう）を提供（ていきょう）してくれる。

「それにしても、琴音（ことね）御姉様（おねえさま）は相変（あいか）わらずですね。気弱（きよわ）で、俯（うつむ）いて、オドオドして。力量（りきりょう）のある『ウィッチ』なのですから、模範（もはん）として、堂々（どうどう）としてください」

　麗美（れみ）が淡白（たんぱく）に、でも少（すこ）しだけ苛立（いらだ）ちを込（こ）めた。

「ひっ、ひぃぃぃ～」

　桃花（ももか）の背中（せなか）に隠（かく）れる琴音（ことね）が、怯（おび）えた瞳（ひとみ）でナチュラルに、小（ちい）さく悲鳴（ひめい）をあげた。

マカリなのでハザマでキョウマとタタカわされます

第24話 EP5-1 氷（こおり）の転校生（てんこうせい）／ＥＮＤ