第15話 EP2-8 桃花は強い

 この世界せかいとなりには、『狭間はざま』とばれる世界せかいがある。

 狭間はざまには、『狭魔きょうま』とばれるモンスターがる。

 狭魔きょうまたおす、『魔狩まかり』とばれる人間にんげんがいる。


   ◇


 はいアーケードにあるはいビルの、くらひろ会議室かいぎしつかえではいってきた。


 風木かぜき かえで風紀ふうき委員いいんである。薄緑うすみどりいろながかみをおさげにして、つきがするどく、がたである。

 十四さい中学生ちゅうがくせいでランクBの『クイッケン』、魔狩まかりである。こしに、天使てんし彫刻ちょうこくつか細剣レイピアをさげる。


 かえでが、たおれた暗井くらい胸座むなぐらつかみあげて、ポケットから錠剤じょうざいうばって、暗井くらいほうとした。

 オレは一瞬いっしゅんなにきたかからなかった。判断はんだんまよった。


 オレは、遠見とおみ 勇斗ゆうと。十四さい中学生ちゅうがくせいで、えないメガネ男子だんしである。こし廉価品れんかひん長剣ロングソードをさげる、一応いちおうしの魔狩まかりである。


 かえで手伝てつだいにてくれたのかもれない。

 くちわる桃花ももか相性あいしょうわるくても、冷静れいせい論理的ろんりてきひとだ。ちょっと雰囲気ふんいき不穏ふおんだけど、自分じぶん立場たちばわるくなる愚行ぐこうおかすはずがない。

 そんなオレの優柔不断ゆうじゅうふだんはらばすように、桃花ももか大剣たいけんかえでける。


今度こんどなんよう風紀ふうき委員いいんさん? 夜間やかん外出がいしゅつはしないんじゃなかったの?」

 そう、それだ。

 情報じょうほう夜間やかん装備そうびも、オレたちに暗井くらいさがさせるために提供ていきょうした、とうたがうべきだ。こういう状況じょうきょうにしたくて、かくれて尾行びこうして、うかがっていたのだろう。


 桃花ももか脳筋のうきんである。野生やせい動物どうぶつめいてはなく。雰囲気アトモスフィアエネミー味方トモダチける。

わたしは、つよくなりたい。……いいえ。ずっと、絢染あやそめさんにちたかった」

 かえでが、けられる大剣たいけんおくすることなく、桃花ももか相対あいたいする。

「なぜこんな不真面目ふまじめひとが、この区域くいきでトップクラスの評価ひょうかなのか。わたしがもっとつよければ、もっとおおくの狭魔きょうまたおせるのに」


 かえでが、錠剤じょうざいひとまむ。

 桃花ももかが、しずかに警告けいこくする。

「アタシとアンタの力量りきりょうが、そんなものでまるわけないでしょ。まだいまなら、手伝てつだってくれてありがと、くらいってあげるわよ?」

 こいつはいつもこうだ。もっと穏便おんびんにできないのだろうか。

魔狩まかり力量りきりょう才能さいのうおおきく依存いぞんし、装備品そうびひん以外いがいでの強化きょうかむずかしいとされています。ですから、ため価値かちはあります」

 なん躊躇ちゅうちょもなく、にある錠剤じょうざいくちへとほうんだ。


   ◇


「いつも! いつもいつもいつも! そうやってわたし見下みくだして!」

 かえでが、いかりに興奮こうふんした口調くちょう怒鳴どなった。こし細剣レイピア乱暴らんぼういた。

 えた。


 かたちくずれて、くろながれて、やみとなって、えた。

 オレは、まったえない。ずっとオロオロしてる琴音ことねは、暗井くらいからえてなかったっぽい。

 マズい。いくらなんでも、はやすぎる。


 桃花ももか大剣たいけんかざしてたてにする。

 キキキキキキキキキキンッ、と一瞬いっしゅん無数むすう金音かなおとった。大剣たいけん無数むすう火花ひばなった。桃花ももかから大剣たいけんはじばされて、ガランガランところがった。


 キュッ、と靴底くつぞこゆかこすおとがした。姿すがたいろすらえなくて、方向ほうこう転換てんかんしたおととだけさっした。

 桃花ももかてずっぽうにこぶしる。桃花ももかうでに、あかきず何本なんぼんはしる。


 ヤバい。

「おい、桃花ももか! さきげるからな!」

 オレじゃあ、邪魔じゃまにしかならない。桃花ももかせるように、このからすしかできない。

 オロオロするばかりの琴音ことねかたつよく。


「ハッ! 冗談じょうだん! アタシがアイツごときにけるわけないでしょ!」

 桃花ももかつよわらばした。こして、無防備むぼうび仁王立におうだちした。


 キュッ、と靴底くつぞこゆかこすおとがする。かえでがブレーキをかけて、姿すがたあらわす。

「また! そうやってそうやって! そうやってわたし見下みくだして!」

 かえで半狂乱ヒステリックわめいた。疾風しっぷうよりもはやんだ。


 かえでうごきは、完全かんぜんえなかった。かたちいろも、一瞬いっしゅんえた。

 瞬間しゅんかんはがねがバギィィィンッッと派手はでおとはじけた。金属片きんぞくへん無数むすうに、キラキラと散乱さんらんした。

 かえでが、くだけた細剣レイピア呆然ぼうぜんつめて、すわんでいた。


 桃花ももか眉間みけんに、えだ先端せんたんかれたみたいなあかあとがある。

 桃花ももか微動びどうだにしてない。反撃はんげきどころか、防御ぼうぎょもしてなかった。

 ただっていた桃花ももかに、本気ほんき攻撃こうげきして、かえではそれでもかえされたのだ。


「アタシとアンタの力量りきりょう勝負しょうぶになるわけないでしょ。それでも手合てあわせがしたいってなら、いつでも相手あいてになってあげるわ」

 桃花ももかつよい。とおもる。

 桃花ももかからだも、こころつよい。だから、桃花ももかつよいのだ。


「アハッ! アハハッ! アハハハハハッ!」

 かえでわらった。たかく、呆然ぼうぜんと、ただわらつづけた。


   ◇


 被害者ひがいしゃ全員ぜんいんだまってたから、表沙汰おもてざたにはならなかった。

 でも、暗井くらいかえで転校てんこうしていった。二人ふたりなりのケジメだったのだろう。


 そして手掛てがかりをうしなって、なにからないまま、調査ちょうさ呆気あっけなくられてしまった。

 モヤモヤした気分きぶんのこったけれど。手伝てつだいの手伝てつだい、くらいの位置いちのオレには、どうでもいいことなのだろう。



マカリなのでハザマでキョウマとタタカわされます

第15話 EP2-8 桃花ももかつよい/END

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