第13話 EP2-6 幽霊って怖い

 この世界せかいとなりには、『狭間はざま』とばれる世界せかいがある。

 狭間はざまには、『狭魔きょうま』とばれるモンスターがる。

 狭魔きょうまたおす、『魔狩まかり』とばれる人間にんげんがいる。


   ◇


 オレは、遠見とおみ 勇斗ゆうと。十四さい中学生ちゅうがくせいで、えないメガネ男子だんしである。こし廉価品れんかひん長剣ロングソードをさげる、一応いちおうしの魔狩まかりである。


 新種しんしゅ能力のうりょく増強薬ぞうきょうやく、いわゆるドラッグの調査ちょうさ手伝てつだって、はいアーケードにいる。

 十年じゅうねんまえまがつ事件じけんおおくの被害ひがいて、放棄ほうきされたらしい。幽霊ゆうれいがいても不思議ふしぎじゃない、不気味ぶきみすぎる廃墟はいきょだ。


「あとはアタシたちにまかせて、アンタはかえりなさい」

 桃花ももか深慮しんりょありげに、ガラのわる生徒せいとった。

暗井くらいのやつをさがしてもらえるっすか、絢染あやそめさま! ありがたいっす!」

 ガラのわる生徒せいとが、安堵あんどしてこたえた。

 人見知ひとみしりの琴音ことねは、やっぱり桃花ももか背中せなかかくれる。


 ここにいるのは、オレと、この三人さんにんだけだ。

 こんな廃墟はいきょに、昼間ひるまだれちかづかない。よるは、素行そこうわる若者わかものとか、如何いかがわしいグループとか、いのちらずの肝試きもだめしとかがいたりするらしい。


今日きょうはアタシたちもかえるわよ。夜間やかん装備そうびがないから」

 桃花ももか断言だんげんした。

「あります」

 不意ふいに、抑揚よくようすくない女子じょしこえこえた。


   ◇


幽霊ゆうれいさんごめんなさいごめんなさいディスったわけじゃないんです!」

ちがうんだまだ科学かがくてき解明かいめいできてないといたかったのであって存在そんざい否定ひていしたわけじゃないんだ!」

 桃花ももかもオレも、こえのしたほう全力ぜんりょく土下座どげざした。


 こえぬしは、風紀ふうき委員いいん風木かぜき かえでである。土下座どげざくびかしげ、ナップサックをアスファルトにく。

「どうせ準備じゅんびしていないだろうと、夜間やかん装備そうびってきました」

「……実在じつざいするわけないじゃない」

「……幽霊ゆうれいなんて、科学かがくてきだぜ」

 もうかなりおそいけど、桃花ももかもオレも平静へいせいつくろった。羞恥しゅうちあかかおで、土下座どげざからちあがった。


わたし風紀ふうき委員いいんですから、立場たちばじょうよる廃墟はいきょ同行どうこうはできません」

「いいわよべつに。アンタ程度ていどじゃ足手纏あしでまといよ」

 桃花ももかはいつもこうだ。

「それでも、できれば、村田むらた先生せんせいのご配慮はいりょんで、内密ないみつにおねがいしたいとかんがえています。もちろん、判断はんだんはおまかせします」

 かえでいたいことをって、あるった。


 かれたナップサックの中身なかみを、琴音ことね確認かくにんする。

夜間やかん装備そうびです。懐中かいちゅう電灯でんとうに、インカム、位置いち情報じょうほうタグ、保護ほご手袋てぶくろ、などなどですね。むかしのアーケードがい見取みともありますよ」

 たのしそうだ。


暗井くらいのこと、よろしくおねがいするっす!」

 ガラのわる生徒せいとが、オレのをゴツい両手りょうてでガッチリとにぎった。律儀りちぎ深々ふかぶかあたまをさげた。


 オレも桃花ももかも、もうあと退けないようだった。


   ◇


 とりあえず、一棟いっとうだけあるはいビルにはいる。鉄筋てっきんコンクリートの五階ごかいてである。

 まどすべ侵入しんにゅう防止ぼうしいたふさがれ、くら廊下ろうかすすむ。懐中かいちゅう電灯でんとうかりには、散乱さんらんした瓦礫がれきと、薄汚うすよごれたかべと、ドアがあった四角しかくあなばかりがかぶ。


しんじてるわよ、琴音ことね

 こしけた桃花ももかが、琴音ことねひだりかたつかむ。

たよりにしてるぜ、真奉しんほうさん」

 こしけたオレも、琴音ことねみぎかたつかむ。

遠見とおみくん絢染あやそめさんが一緒いっしょで、とても心強こころづよいです」

 琴音ことねれながら、うれしそうにはにかんだ。


 あやうい信頼しんらい関係かんけいだ。

 個々人ここじんとしては、だれ信頼しんらいできない。信頼しんらいあたいする要素ようそを、だれってない。

 なのに、三人さんにんあつまると、なぜか信頼しんらい発生はっせいする。存在そんざいしない信頼しんらいが、からゆうが、三人さんにんなか創造そうぞうされる。


「ここは、会議室かいぎしつってありますね。ひろめの部屋へやで、ひとあつまりやすいとおもいます」

 琴音ことねにある見取みとらして、かべあなひとつにんだ。

「あんっ。まっ、まだこころ準備じゅんびが」

はやまるな。ひと以外いがいのものがあつまってたら大変たいへんだぞ」

 桃花ももかもオレも、ふるえながらつづいた。


 くらい、ひろ部屋へやだ。さん部屋へやつながっているようだ。

 懐中かいちゅう電灯でんとうまるかりが、あちこちを順番じゅんばんらす。

 ボロボロのくろいカーテンが、丁寧ていねいまどおおう。天井てんじょうにはれた照明しょうめいがぶらさがる。こわれた長机ながづくえ残骸ざんがいかささらす。


 部屋へや片隅かたすみに、ひとっぽいかげがある。


   ◇


「きゃーっ! たーっ!」

「うぎゃっ! うぎゃっ!」

 桃花ももかとオレは、琴音ことねかたって全速力ぜんそくりょくした。


 ってくる。

 それは、やみだ。やみが、くらせま廊下ろうかを、瓦礫がれき散乱さんらんしたゆかを、ヒビのはいったかべを、ところどころれた天井てんじょうを、縦横じゅうおう無尽むじんめぐった。


 やみまとうように、かぜおとがした。

「きゃーっきゃーっ!」

 桃花ももか桃花ももかにあるまじきカワイイ悲鳴ひめいをあげながら、オレのこし長剣ロングソードく。くら廊下ろうかりまわす。

 キィィィンッと甲高かんだかく、金属きんぞく同士どうしおとった。


「うわぁっ!」

 夕暮ゆうぐれのはいアーケードにす。ゼェゼェといきみだれる。すわみ、てきたあなかえる。

 かつては正面しょうめんとびらだった大穴おおあながある。大穴のおくやみには、オレンジいろ夕焼ゆうやけがむ。


「まさか、ここまではってこないよな?」

 オレはビビりながらいた。

「……はっきりとはえなかったけど、幽霊ゆうれいじゃなくて、ひとだったわ」

 桃花ももか蒼褪あおざめたかおこたえた。

「……そういうことは、もっとはやえよ」

「だって、こわくて、それどころじゃなかったのよ」

 桃花ももかずかしさにかおあかくした。

 オレもこわかったから、ずかしがることではない。と、おもう。



マカリなのでハザマでキョウマとタタカわされます

第13話 EP2-6 幽霊ゆうれいってこわい/END

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