第7話 EP1-7 草原の決闘

 この世界せかいとなりには、『狭間はざま』とばれる世界せかいがある。

 狭間はざまには、『狭魔きょうま』とばれるモンスターがる。

 狭魔きょうまたおす、『魔狩まかり』とばれる人間にんげんがいる。


   ◇


 あっと一週間いっしゅうかんぎた。狭魔きょうまけの御札おふだは、最後さいご一枚いちまいがついさっきやぶれてった。


 オレは、遠見とおみ 勇斗ゆうと。十四さい中学生ちゅうがくせいで、えないメガネ男子だんしである。一応いちおうしの魔狩まかりである。


 しろくものポツポツとかぶ青空あおぞらした住宅地じゅうたくちの、ブロックべいはさまれたせまみちにいる。一週間いっしゅうかんまえ狭魔きょうまおそわれた場所ばしょである。


 こしにある片手大剣クレイモアの、つかにぎる。

 一週間いっしゅうかん桃花ももかのスパルタ指導しどうけた。すこしはマシになった、とおもいたい。


 狭魔きょうませの『刻印こくいん』には、ふたつの利点りてんがある。

 ひとつは、複数人ふくすうにん同時どうじおな狭間はざまはいれる。たいいち有利ゆうりたたかえる。

 もうひとつは、たたかうタイミングをこちらでえらべる。不都合ふつごう不意討ふいうちを回避かいひできる。


 ふるえる。やるしかないけど、準備じゅんびはしたけど、こわい。


   ◇


にたくないよぉ」

 オレはきながら、セコンドの桃花ももかすがりついた。

「やれることはやったでしょ。いてちゃてないわよ。冷静れいせいたたかえば、勝機しょうきだってかならずあるから」

 桃花ももかの、気休きやすめみたいなはげましだった。一緒いっしょたたかえないのを、くやしげにくちびるんでいた。


 オレは普段着ふだんぎティーシャツジーパンスニーカー、桃花ももかはいつものノースリーブにミニスカートにスニーカーで、いつもとわらない。

 でも、いつもとちがって弱々よわよわしくえるのは、恐怖きょうふ不安ふあんのせいだろうか。


「ダセぇ!」

 古堂ふるどうが、虚空こくう一喝いっかつした。


 古堂ふるどう 和也かずやは、小型こがた洋弓ようきゅうたたか魔狩まかりである。

 オレや桃花ももか近所きんじょむ、大学生だいがくせいである。金髪きんぱつ逆立さかだて、くろかわジャンかわパンツの、派手はでちのおとこである。


「ダサくないわよ! だれだって」

 桃花ももかってかかる。しかし、古堂ふるどう洋弓ようきゅうひざって、ビックリしてまる。


 オレと桃花ももかは、困惑こんわくして古堂ふるどうる。

なにがダセぇって、ライバルともきるかぬかってぇときに、手前てめぇてくればっかりにしてやがるおれっちがダセぇ!」

 古堂ふるどうが、逆立さかだ金髪きんぱつ両手りょうてぜてくずした。勉学べんがく一筋ひとすじ受験生じゅけんせいみたいな黒縁くろぶちのメガネをかけた。よりもなが和弓わきゅうにした。


「そんなことしても、つよくはならないとおもうけど……」

 桃花ももか困惑こんわくのままにこえをかける。

おれっちはド近眼きんがん乱視らんしだ。このゆみは、しょうちゅうこう一緒いっしょ研鑽けんさんんだ相棒あいぼうだ。すこしくらいは命中率めいちゅうりつがあがるだろ」

 古堂ふるどうが、不敵ふてき口角こうかくりあげた。特訓とっくんまとろくてられなかったとはおもえない、自信じしんありげなみだった。


   ◇


古堂ふるどうさん。どうして、年下とししたのオレがライバルなんすか?」

 オレは、すこいた。くのは、やめた。

おれっちが、仕様しょーぇことでなやんでたときだ。なやむのも未練みれんもダセぇって、あきらめようとめた」

 古堂ふるどうが、和弓わきゅう点検てんけんをしながらこたえる。

「そんなとき、おめぇいやがった。オレも仕様しょーぇことでなやんでるから、オマエもなやめ、あきらめるな、ってよぉ」

 げんかるはじいてらす。『刻印こくいん』を小袋こぶくろからし、ゆびめる。

「そんなことっすか?」

 オレも『刻印こくいん』を小袋こぶくろからし、ゆびめる。

おれっちはおもったのさ。こいつは最後さいごまで足掻あがくダサイやつなんだな、ってな。おれっちも、こいつみたいに、最後さいごまで足掻あがけるようになりてぇな、ってな」

 二人ふたり一緒いっしょに、たかかざした。『刻印こくいん』にひかり反射はんしゃして、キラキラとひかった。


   ◇


 灰色はいいろそらしたくろ草原そうげんにいる。しろかぜいて、黒い草原をザワめかす。


 オレの後方こうほう三十さんじゅうメートルくらいに、古堂ふるどう和弓わきゅうつがえる。オレのほうけてげんしぼり、ピタリとうごきをめる。


 オレは、ふるえる両手りょうて片手大剣クレイモアつ。おもくて、こしよりすこしたかまえる。


 ガサリ、とくろ草原そうげんおおきくれた。おおきなけものみたいな狭魔きょうました。オレにけて、びかかってきた。

「ヒッ?!」

 悲鳴ひめいた。

 練習れんしゅう本番ほんばんちがう。こわいものは怖い。

 りおろされるけものつめに、必死ひっし片手大剣クレイモアかざす。ギィィィンッ、と鋼刃こうじん悲鳴ひめいをあげる。はじばされて、くろ草原そうげんころがる。


 古堂ふるどううごかない。はなたない。オレは必死ひっしちあがる。

「うぁっ?!」

 あしもつれて、ころんだ。

 ガサリとくろ草原そうげんれる。おおきなけものみたいな狭魔きょうまびあがる。

 わった。みじか人生じんせいだった。


「この程度ていどじゃあきらぇよなぁ、ライバル!」

 古堂ふるどう雄叫おたけんだ。風切かざきおんって、狭魔きょうまかたさった。

 一瞬いっしゅん狭魔きょうまひるんだ。致命傷ちめいしょうにはとおいけれど、十分じゅうぶんだった。

「うっ、うわぁっ!」

 オレは無我夢中むがむちゅうで、片手大剣クレイモアきあげた。剣先けんさきが、狭魔きょうまのどつらぬいた。


   ◇


 オレは、アスファルトにすわむ。けたかおで、そらあおぐ。

 しろくものポツポツとかぶ青空あおぞらした住宅地じゅうたくちの、ブロックべいはさまれたせまみちだ。


勇斗ゆうと! 大丈夫だいじょうぶ? 怪我けがしてない?」

 桃花ももか心配しんぱいして、オレの襟首えりくびつかんでさぶる。

 オレの後方こうほう三十さんじゅうメートルくらいに、古堂ふるどうだい寝転ねころがる。

緊張きんちょうした! もう二度にどとやらぇからな! つぎべつのやつにたのめ!」


 オレは、古堂ふるどうに、桃花ももかに、こころそこから感謝かんしゃした。この二人ふたりでなかったら、オレのいまはなかっただろう。



マカリなのでハザマでキョウマとタタカわされます

第7話 EP1-7 草原そうげん決闘けっとう/END

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