第4話 EP1-4 琴音は魔法少女である

 この世界せかいとなりには、『狭間はざま』とばれる世界せかいがある。

 狭間はざまには、『狭魔きょうま』とばれるモンスターがる。

 狭魔きょうまたおす、『魔狩まかり』とばれる人間にんげんがいる。


   ◇


 オレは、遠見とおみ 勇斗ゆうと。十四さい中学生ちゅうがくせいで、えないメガネ男子だんしである。一応いちおうしの魔狩まかりである。


「これより、狭魔きょうま討伐とうばつおこなわれます! 危険きけんですので、みなさんは避難ひなんしてください!」

 魔狩まかりギルドの職員しょくいんが、むらがる見物人けんぶつにん避難ひなん誘導ゆうどうはじめた。

「ケチケチすんなよ! このあいだのマッチョの大男おおおとこしかれてないんだぞ!」

「こっちも! ふくだけかすスライムっていて、遠征えんせいしてきたのに!」

 昼間ひるま快晴かいせいをスマホに反射はんしゃさせながら、見物人けんぶつにん勝手かってさわぐ。安全あんぜん場所ばしょ文句もんくうだけの野次馬やじうまは、気楽きらくでいいな。


はじめるわよ、琴音ことね!」

 桃花ももかが、後方こうほう琴音ことねこえをかけた。

 右手みぎて人差ひとさゆびてつ指輪ゆびわめた。桃色ももいろながかみらし、右手をたかかかげて、指輪ゆびわしめした。

 は、ゴテゴテしたオモチャの指輪ゆびわである。狭魔きょうませる魔法品マジックアイテムで、『刻印こくいん』とばれる。

「はい!」

 琴音ことね指輪ゆびわめた。白銀はくぎんながかみらし、左手ひだりてたかかかげた。


 琴音ことねは、魔法まほう少女しょうじょ格好かっこうになると、雰囲気ふんいきわる。内気うちきなオドオドではなくなる。堂々どうどうまえき、おおきなむねる。

 中学生ちゅうがくせいとしては、自信じしんがない。でも、魔狩まかりとして、ウィッチとして、魔法まほう少女しょうじょとして、自信がある。


 前触まえぶれもなく、空気くうきわった。


   ◇


 二人ふたりえる。直前ちょくぜんまでいた場所ばしょに、もういない。

 オレは、この世界せかいから狭間はざまえる特殊とくしゅ能力のうりょくちだから、見える。

 ほかだれにも、二人ふたりえない。魔狩まかりギルドの職員しょくいんだろうと、見えてない。


 灰色はいいろそらしたくろに、ポツポツとしろくさえる。

 くろを、校庭こうていだってめられそうな巨大きょだいな、あお透明とうめいなスライムがいずる。

 巨大デカすぎる。物理ぶつり無効むこうとか以前いぜんに、手持てもちサイズの武器ぶきでダメージをあたえられるおおきさじゃない。


 琴音ことねが、あかいハートとしろつばさつえを、レースの手袋てぶくろに、おおきなむねたかさにかまえる。

あかく、万象ばんしょうき、し、のぼり、宿やどり」

 んだたかこえで、魔法まほう詠唱えいしょうはじまった。

 白銀はくぎんながかみが、うっすらとかがやく。白銀はくぎんひかりが、かぜなびいてく。

 レースやフリルをふんだんに使つかった白銀はくぎん魔法まほう少女しょうじょ衣装いしょうまで、ひかり反射はんしゃしてキラキラとかがやく。


「かかってきなさい! このっ! ……フニャフニャ!」

 桃花ももか挑発ちょうはつしながら、桃色ももいろながかみみだし、両刃りょうば大剣たいけんりかかった。

 はたして、スライムに日本語にほんごつうじるのか。つうじたとしてフニャフニャの意味いみかるのか。かったとして悪口わるぐちになるのか。


 ベチャッ、とヌルヌルしてそうなおとで、大波おおなみのようないきおいで、スライムが桃花ももかおそいかかった。

 言葉ことばつうじなくても、悪口わるぐちだとはつたわったのかもれない。さすがは、語彙力ごいりょくはなくともくちわる桃花ももかだ。

「キモい!」

 さらなる悪口わるぐちさけびながら、桃花ももかりつけた。物理ぶつり攻撃こうげきくわけもなく、ベトベトヌルヌルネチャネチャしてそうなスライムにまれた。


 桃花ももかふくける。桃花ももかくるしげに身悶みもだえる。あっとに、下着したぎ露出ろしゅつする。

 ちがった?! 下着したぎではなく、水着みずぎだ。この展開てんかいは、対策たいさくみだったようだ。

 三角さんかくぬのをヒモでつないだかんじの水着みずぎである。あかいビキニである。あのちいさなむねで、その英断えいだんは、称賛しょうさんあたいする。


 スライムにかされないのは、アンチアシッド魔法品マジックアイテムだからだろう。

 魔法品マジックアイテム高価たかい。中学生ちゅうがくせい魔狩まかりでは、ぬの面積めんせきひろふくえない。

 そこで、比較的ひかくてきやすい、ぬの面積めんせきせまいビキニにしたのだ。代償だいしょうとして、むねちいささが目立めだってかなしい。


「そういうことか……」

 オレは、オレがばれた理由りゆうを、オレにしかできない役割やくわりを、完全かんぜん理解りかいした。

 カバンからおおきいバスタオルをす。いつでもかけられるようにひろげてスタンバイする。


くずれ、めぐり、り、万物ばんぶつくせ! 深紅のクリムゾン業火よインフェルノ!」

 琴音ことね詠唱えいしょう完了かんりょうした。魔法まほう完成かんせいした。

 スライムのなか桃花ももか藻掻もがいて、大剣たいけん背後はいごてた。

 自身じしんとスライムのあいだではなく、自身と琴音ことねあいだに、だ。スライムの攻撃こうげきよりも、琴音ことね魔法まほうからまもるために、だ。

 琴音ことねつえからはなたれた、巨大きょだいなスライムよりも広範囲こうはんいほのおが、くろはらった。ジュッ、とけるおと一瞬いっしゅんだけこえた。


   ◇


 ふたた住宅地じゅうたくちんだみちで、しゃがみ桃花ももかにオレはる。少女しょうじょ華奢きゃしゃからだつつむようにバスタオルをかける。

 ほのおでビキニのヒモがれかかっていた。あぶなかった。

桃花ももか! 大丈夫だいじょうぶか?」

「ゲホッ、ゲホッ。これくらい、楽勝らくしょうよ」

 桃花ももか咳込せきこみながら、つよがってわらった。


 一瞬いっしゅんだった。巨大きょだいなスライムが、一瞬いっしゅん蒸発じょうはつした。

 快晴かいせい青空あおぞらからちてくる小石こいしを、琴音ことね軽快けいかいにキャッチする。パシンッ、と爽快そうかいおとひびく。

遠見とおみくん! 絢染あやそめさん! ありがとうございます!」

 琴音ことねが、自信じしんちた微笑びしょうれいべた。


 真奉しんほう 琴音ことねは、魔法まほう少女しょうじょである。

 ふたは『白銀のシルバーフレア』。その華麗かれいさを『魔女ウィッチ』なんて地味じみ呼称こしょうませては、勿体もったいないだろう。



マカリなのでハザマでキョウマとタタカわされます

第4話 EP1-4 琴音ことね魔法まほう少女しょうじょである/END

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