第7話
姫宮さんと一緒に帰路に就く。
怪人は僕の気配を敏感に感じ取り、接近はしてこないようだ。どうやら先日の一件で僕が侮れない人物だというのは怪人の間にも広まったらしい。
姫宮さんと分かれると、僕はすぐにゼロに変身する。物陰から姫宮さんを観察していると、やはりというべきか姫宮さんが1人になったタイミングを狙って怪人が現れた。
僕はすかさず飛び出すと、姫宮さんに襲い掛かった怪人を駆逐する。
「ゼロ様!」
姫宮さんが感涙の声を上げて、飛び跳ねる。そんな姫宮さんに僕は歩み寄るといつものように声を掛ける。
「大丈夫だった?」
「はい、おかげさまで」
「そっか。それじゃ僕はこれで」
「あの、待ってください」
立ち去ろうとした僕の背中を引き留める声。僕が振り返ると姫宮さんは顔を真っ赤にして胸の前で手を組んでいた。
「お礼を、させてほしんですけど」
「お礼、ですか」
「いつも守ってもらってるので」
消え入りそうな声で姫宮さんが呟く。余程勇気を出したのだろう。僕はその勇気に応えてあげたい。
「僕なんかでいいの?」
「はい、もちろんです!」
姫宮さんの表情がぱっと華やぐ。僕はその顔が見れて嬉しい気持ちになる。
「カフェでも行きませんか」
「ご一緒します」
「ありがとうございます!」
姫宮さんが小躍りして喜んだ。余程僕と一緒に出掛けたかったらしい。僕は姫宮さんを護衛しながら、ついていくことにする。
「ゼロ様はどうしてヒーローをされてるんですか」
「敬語じゃなくていいよ、あと様づけもいらない」
「えっと、ごめん。ゼロはどうしてヒーローをしているの?」
「家がヒーローの家系だったってのが一番大きな理由かな」
僕の家は代々ヒーローの家系だ。この町で怪人と戦ってきた。逆に僕たちみたいな人間がいないと、この町の女子はみんな攫われてしまっていただろう。
「えっと、年齢は聞いても?」
「十六だよ」
「まさかの同い年だわ!」
姫宮さんが目を輝かせる。同い年だと何かいいことがあるのだろうか。僕にはわからないけど、姫宮さんが嬉しそうにしているのならいいか。
「えっと、ゼロ。私たち、お友達になれませんか」
「え」
「私、あなたにはいつも感謝しているの。どんな時でも助けにきてくれる素敵な人。でも、私はまだ何もあなたに返せていない。だから、お友達になって少しでもあなたに返していきたい」
友達か。僕と姫宮さんは既に友達だけどね。僕は苦笑しながら頷いた。姫宮さんの表情が華やいだ。
「えっと、ゼロ。どうして仮面をつけてるの?」
「質問攻めだね」
「ごめんなさい」
「いいよ。これはやっぱり恥ずかしいからかな。僕なんかがヒーローをやっているのが」
「あなたは立派なヒーローよ」
「ありがとう」
僕の笑顔は姫宮さんには届かない。それでも姫宮さんは僕の笑顔を受け取ってくれたようだ。
それからしばらく談笑しながら歩き、カフェに辿り着く。カフェの中に入ると、姫宮さんは一番景色のいい席を取って座った。
「いつも助けてもらってるお礼に奢るわ。なんでも好きなもの頼んでね」
「ありがとう」
僕はカルボナーラとコーヒーを注文した。今日は夕食を作らなくても良さそうだ。
「私の学校でゼロは凄い人気よ。同い年なら学校には通わないの」
「ヒーロー活動があるからなかなかね」
「うちの学校に来てくれたら、きっとみんな歓迎するのに」
実は同じ学校に通ってるんです。言えないけど。そこまで言ってしまったら正体がばれる恐れがある。まあ、誰もモブキャラの影野真守がゼロだとは思わないだろうけど。
「僕はみんなの笑顔が守れればそれでいいよ」
「かっこいいわ。うちの男子にも聞かせてあげたいぐらい。あ、でも」
そう言うと姫宮さんは何かを思い出したように手を打った。
「影野くんって男の子がいるんだけど、彼はかっこいいわ」
「ごほんごほん」
突然自分の名前が出てきたことに驚いた僕は反射的にむせ返る。
「どうしたの?」
「ごめん、ちょっと唾液が変なところに入っちゃって。で、その影野くんがどうしたの」
「うん、この間怪人に襲われた時があって。その時に私を抱えて一緒に逃げてくれたの」
「それは凄いね」
「ええ、驚いたわ。正直頼りにはならないタイプだと思っていたから。でも人を見た目で判断するのって良くないのね。それがよくわかったわ」
姫宮さんはぺろっと舌を出すと、悪戯っぽく笑った。
まああの時は姫宮さんの危機だったし、多少力を見せるのもいたしかたなかった。
でも、こうやって目の前で自分が褒められるというのもなんだか照れくさいものがあるな。
「影野くんはいい友人よ。他の男子とは違う、確かな勇気を持っている人だわ」
「信頼しているんだね、影野くんのこと」
「ええ。とても」
なんだかむず痒い。自分のことをこうして褒められるのは慣れていない。だって今まで影野真守はモブキャラだったから。そのモブキャラがこんな風に誰かに褒められるというのはどうにも違和感が拭えない。
そうこうしているうちに注文したカルボナーラとコーヒーが届く。
「いただきましょうか」
姫宮さんにそう言われ、僕はフォークを手に取った。
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