第8話

 仮面を口のところだけ開けて、僕はパスタを口に入れようとする。しかし、フォークが上手く扱えず、上手くパスタを口に運べない。


「ふふ、ゼロって意外にフォークを使うのが下手なのね」


 くすくすと姫宮さんが笑う。

 姫宮さんの前で恥ずかしいところを見せてしまった。僕はスプーンを手に取ると、スプーンにパスタを乗せてフォークで巻き取る。なんとかフォークでパスタを巻けた僕は口へ運んだ。


「うん、美味しい」


 お腹が空いていたから凄く美味しく感じる。カルボナーラのソースがパスタに絡まり絶妙な味わいを表現している。たかがファミレス、されどファミレス。ファミレスといえども侮れないものだ。


「なんだかゼロの意外な一面を見れて誘った甲斐があったわ」

「僕は恥ずかしいよ」

「そういうところも可愛いって言ってるの」


 姫宮さんは人差し指を僕に突きつけると、仮面に付いたソースを指で掬ってぺろりと舐めてしまう。


「あ、ついてた? ごめん」

「いいわよ。子供みたいで可愛いわ」


 くすくすと笑う姫宮さんと恥ずかしがる僕。対照的な二人のテーブルは華やかな空気に包まれている。

 僕がパスタを苦労して食べ終えると、姫宮さんが「よくできました」と褒めてくれる。なんだか子ども扱いされているみたいで少々気恥ずかしい。

 だが、姫宮さんが楽しそうだから別にいいかと思えた。


「ゼロ。これからも私と出掛けてくれる?」

「勿論」

「やった。嬉しいわ」


 姫宮さんとは影野真守としても、ゼロとしても仲良くしていきたい。彼女は周りを明るくしてくれる。

 その明るさに僕は惹かれていた。


「それじゃ、そろそろ帰ろうか。送っていくよ」

「ええ、ありがとう」


 そういて会計を済ませた僕たちはファミレスを出て、帰路に就く。

 怪人は僕が姫宮さんの側にいるから襲ってはこないようだ。

 不意に姫宮さんのスマホが鳴った。


「もしもし……どうしたの? 大丈夫!?」


 突如、姫宮さんが慌てたような声を出す。僕は何があったのかと問いただすと、姫宮さんは顔面蒼白になりながら告げた。


「美緒が、攫われたって、電話で」

「外崎さんが」


 僕はしまったと思う。姫宮さんに集中しすぎた。怪人は基本的に姫宮さんを狙ってくるから、注意して護衛していたのだけど、どうやら今日は当てが外れたらしい。外崎さんは先日も襲われていたし、もっと警戒しておくべきだったかもしれない。


「ゼロ、行ってあげて。美緒を助けて」

「……わかった。僕行くよ。姫宮さんは真っすぐ家に帰ってね」

「ええ、お願いね」


 僕は駆けだす。怪人レーダーを取り出し、怪人の位置を確認する。近くに怪人はいない。だが、数キロ先に移動している怪人がいるのを見つけた。こいつが怪しい。僕はあたりをつけると、その怪人目掛けて駆けだす。スーツの効果を全開に発揮し、目標目掛けて突っ走る。五分程で、その怪人に追いついた。怪人の腕には女子らしき人間が抱かれている。僕は背後から接近すると、怪人を追い越し通せんぼする。怪人は足を止め、腕に抱えていた女子を落とした。


「いたっ……」


 間違いない。外崎さんだ。外崎さんは意識はあるようで、すぐに立ち上がった。


「ゼロ、来てくれたんだ」

「もう大丈夫だよ。安心して」


 僕は外崎さんを安心させるように声掛けをしながら、怪人に対峙する。

 なんだこの怪人。今まで戦ってきた怪人とはなにか違うような。

 不意に、怪人が接近する。速い。対応が遅れた僕は怪人の一撃を鳩尾に喰らった。


「がはっ……」


 後ろに吹っ飛んだ僕は壁に打ち据えられる。

 なんだこの威力。今までの怪人とは力が段違いだ。僕は立ち上がると、地面に唾を吐く。

 どうやら油断はできないようだ。今まで相手にしてきた雑魚の怪人とはわけが違うらしい。僕は深呼吸で呼吸を整えると、魔力を集中させ、魔力の刀を生み出す。

 そして勢いよく地を蹴ると、怪人に向かって突撃する。怪人は巧みなステップで僕の初撃を躱すと、カウンターを仕掛けてくる。だが、僕は躱されることも予測していた。初撃はフェイクだ。フェイクに引っかかった怪人は僕の思惑通り、がら空きになる。僕はそのがら空きになった怪人の胴を横一線で斬り抜いた。


「ぎょえええええ」


 真っ二つになった怪人は断末魔を上げながら霧散した。

 今日の怪人はいつも相手にしているやつらと段違いに反応が良かった。何が起こっている。怪人が強化されているとでもいうのか。

 僕は怪訝な表情を浮かべながら怪人が霧散した場所を見つめる。


「や、やった」


 外崎さんが僕が怪人を倒したことを喜ぶ。僕は外崎さんに近付くと声を掛ける。


「怪我はない?」

「はい、ちょっと掠っただけです」

「じゃあまた消毒しようか」


 女の子だし、あまり生傷を作るのは可哀想だ。今日は姫宮さんに集中しすぎた僕の失態だ。外崎さんに詫びを入れながら、僕は外崎さんの治療をした。


「ありがとう、ゼロ」

「それにしてもまたこんな時間に外で歩いてたの? 危ないよ」

「えっと、ごめん」


 外崎さんはばつが悪そうに顔をしかめる。

 この間も外崎さんは日が落ちてから出歩いていたし、何か事情があるのだろうか。

 僕はそう思い、外崎さんを問い詰める。


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