第3話
カフェを出て帰り道。僕と姫宮さんは並んで歩いていた。
「送っていくよ。家はどっちの方?」
「ありがとう。あっちよ」
そう言って指差した方向は僕と同じ帰り道だった。
二人並んで道を歩く。僕はひとり怪人を警戒しながら周囲を見渡していた。
「どうしたの、きょろきょろして」
「いや、この辺りあまり歩いたことないから」
怪訝な表情を浮かべる姫宮さんに僕はそう言って誤魔化す。できるだけ姫宮さんには悟られない方がいい。姫宮さんも怪人を警戒していると知ったら、怖い想いをするだろうし、このまま出てこないのが一番いいんだけど。
そう思ったのも束の間、背後から殺気を感じた僕は姫宮さんの手を引いた。
その刹那、姫宮さんのいた場所に怪人が飛び掛かって来た。
全身白で覆われた、気持ちの悪いマスクをつけた改造人間だ。力は成人男性の数倍はあり、普通の人間が立ち向かうのは困難を極める。
「きゃっ……怪人」
「姫宮さんこっち」
僕は姫宮さんの手を引きながら走る。怪人は初撃が外れたことで、タイムラグが生じている。次の動作まで時間がかかることを見越して僕は逃走を図った。今は姫宮さんの目がある。ゼロに変身している暇はない。
だが、僕の走力と姫宮さんの脚力では圧倒的な差が存在していた。走るのが辛そうな姫宮さんを怪人が狙って攻撃を仕掛けてくる。僕は咄嗟に姫宮さんを抱きかかえ、高く跳躍した。
「すごい……」
姫宮さんが目を見開いて驚いている。クラスのモブキャラにこんな身体能力があるなんて誰も思わないだろう。だが、今は出し惜しみをしている時ではない。なんとか姫宮さんを安全に家まで送り届けなくてはならない。
怪人は外でしか活動できない。家の中に入ってしまえば、怪人が襲ってくることはなくなる。
「姫宮さん、家の場所教えて」
「う、うん、そこの角を左で」
姫宮さんのナビに従い、僕は必死で道を駆ける。
そうして見事怪人から逃げ切り、姫宮さんの家の中へと飛び込んだ。
「ありがとう、影野くん。助かったわ」
姫宮さんが興奮気味に膝を付く僕の肩に手を乗せる。
「ていうか、影野くん、凄くない? 怪人相手に私を抱えて逃げ切るなんて」
「姫宮さんは軽いから楽勝だったよ」
「お礼をさせて。私の部屋に案内するわ」
そうして姫宮さんの部屋に通される。綺麗に整頓されていて小物が置いてある女の子らしい部屋だった。
姫宮さんは僕をクッションに座らせると、ジュースを入れて持ってきてくれた。
僕はそのジュースを一息に呷ると、大きく息を吐いた。
「姫宮さんが無事で良かった。いつも怪人に狙われてるの?」
「うん、いつもはゼロ様に助けてもらうんだけど、今日はいきなりだったからびっくりしたわ」
ゼロも万能じゃない。襲われやすい子には目を付けているけど、この町中に出没する怪人すべてに対処できるわけじゃない。僕の父さんたちも頑張ってはいるけど、数が圧倒的に足りないのだ。そうなると、姫宮さんをいつでも助けられるわけじゃない。怪人の狙いは優秀な子孫を残すこと。怪人は全員オスだ。その怪人に連れ去れれたら無理やりレイプされ、子どもを産ませられることになる。そうなったら手遅れだ。この町からは女の子が姿を消すことがよくある。僕たちだけの手じゃ回りきっていないのが歯がゆい現実だ。
「でも影野くん凄かったわ。あんなに力持ちで足が速いなんて思わなかった」
「よく言われるよ」
でもこうして少し接しているだけでも怪人に襲われるんだから、姫宮さんはやっぱり可愛い。怪人はより可愛い女子を狙う傾向にある。姫宮さんの容姿が優れているから狙われやすいのだと思う。実際、ゼロとして活動している時も、姫宮さんはよく襲われている。僕もクラスメイトを怪人に攫われたりするような事態は避けたい。だから姫宮さんのことは重点的に見ているつもりだ。
「影野くん、いきなり怪人出てきても全然動じてなかった。正直頼りないなって思ってたのに、ふふ、まるでゼロ様みたいだったわ」
「ごほん、ごほん」
僕は咳払いをして誤魔化した。
影野真守の姿ではできることは限界がある。せいぜい女の子一人を抱えて逃げることしかできない。だが、ゼロならば、怪人を倒すこともできる。やはり放課後のパトロールには力を入れた方が良さそうだな。
「姫宮さんは学校に行くの怖くない?」
「怖いわよ。でも、怪人に負けたくないの」
姫宮さんは強い意志で前を向いた。
「怪人のせいで私の自由が奪われるのは我慢ならない。私はいつだって私らしく生きてやるわ」
かっこいい。素直にそう思った。本当はいつ怪人に襲われるかもわからない恐怖でいっぱいだろうに。僕はますます姫宮さんのことを守りたいと思うようになった。
クラス委員になったことで、彼女と接点ができた。これからはなるべく一緒にいるように心がけよう。
姫宮さんだけじゃない。僕に守れる人数はたいしたことはないけど、せめて学校の女の子が安心して通えるように、僕は尽力する。それがヒーローたるものの務めだ。
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